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ダミー役を担うコンサル子会社

 訪朝したのは錦織が関電の子会社ニュージェックの代表取締役会長だったころだ。使節団の基調講演で、北朝鮮政府の幹部たちを前に本人が話している。

「私が貴国と初めて関係を持ったのは、98年に貴国の代表団が来日されたときでした。その折、私は朝鮮代表団の要請を受けて、貴国の電力部門における開発の可能性を検討しました。結果、貴国の人口が2100万人であること、関西電力の供給人口も同じく2100万人であること、周波数もまた60サイクルであることなどを勘案し、関西電力の発電、送電、変電などの施設、設備のあり方と方法が貴国の電力セクターの開発発展のために参考になると、思料いたしました」

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 ここからプロジェクトがスタートするのだが、錦織が計画の窓口になっているのは、それなりの理由がある。関西電力の取引業者が解説する。

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「東電や関電など日本の電力会社は、それぞれコンサルタント子会社を持っていますが、子会社はいわば親会社のダミー的な役割を担っています。もともと錦織さんが社長を務めていたニュージェックは、旧社名を新日本技術コンサルタントといい、関電が東南アジアに進出する際、ここが事前の現地調査や相手国との交渉をおこなってきました。開発計画では着手る前に関西電力の名前が出るとまずいので、子会社がダミーの役割を果たすのです。とくに対北朝鮮開発の場合、日本国内向けにも情報が漏れないよう、ナーバスにならざるを得ない。その意味で、ニュージェックで経験を積んできた錦織さんはうってつけだったと思います。プロジェクトのため、わざわざニュージェックの会長から降り、個人事務所である『錦織技術事務所』を設立した。やはり、それも関電の名前を出したくなかったからでしょう」

後ろめたさがつきまとう水面下の工作

 民間企業である以上、営利を追求するのは必然だ。他より一歩でも先んじるためには、水面下の工作も不可欠に違いない。反面、そこには後ろめたさがつきまとう。この件を取材した05年当時、北朝鮮開発に関わる当事者たちの口は一様に重かった。

「企業の守秘義務がありますから答えられません」

 取材をすると、錦織技術事務所では逃げを打ち、関電をはじめプロジェクトの参加企業も似たり寄ったりの答えしか返ってこない。レインボーブリッヂ(編集部注:北朝鮮に対する人道支援を目的として設立されたNGO団体。工業燃料不足に苦しむ北朝鮮に対し、石油や石炭代わりの廃タイヤチップを寄付していたことが明らかになり、水谷建設の政界工作解明に乗り出した東京地検特捜部からの捜索対象となった)との関係が取り沙汰された前田建設工業の専務にも取材を申し入れたが、「北朝鮮の件についてはお答えできません」と話すのみだった。

 水谷建設の水谷功とレインボーブリッヂの小坂がタッグを組んで北朝鮮ルートの開拓に乗り出すのは、こうした関電やゼネコンの動きとときを同じくする。まさに日朝の関係が国交回復に向けて熱くなっていた時期だ。