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「こいつら、生きていてもしょうがない」 4年の取材と37回の接見で見えてきた“植松聖死刑囚”の実像とは

「こいつら、生きていてもしょうがない」 4年の取材と37回の接見で見えてきた“植松聖死刑囚”の実像とは

『やまゆり園事件』より#1

genre : ニュース, 社会

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 どれくらいの時間がたったころだろうか。隣接する男性専用「みのりホーム」の男性職員がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。背後には植松の姿があった。包丁を突き付けられ、同じように結束バンドで手すりに縛り付けられた。「これから厚木とかにも行っちゃうからね」。植松の発した言葉が、身体と知的の重複障害のある人が入所する系列の障害者施設を指していると直感し、思った。そこの入所者も殺すつもりなのだ、と。

 植松は支援員室に入り、パソコンを操作して夜勤に入っている職員をチェックした。自分より体格のいい人物がいないことを確認するためだった。その間、わずか数分。植松は階段を使って西居住棟2階の男性専用「いぶきホーム」へ足を向けた。

「こういう人たちっていらないですよね」

 午前2時半ごろ、エレベーターホールの出入り口の鍵の開く音がした。支援員室の外にあるベンチで休憩中に携帯電話を眺めていた「いぶきホーム」の男性職員はさほど気に留めなかった。翌朝開かれる職員会議の資料をつくるために他の職員が早めに出勤してきたのだろうと考えたからだ。

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 少しずつ近づいてくる足音は、目の前で止まった。ポタポタと滴(しずく)が床に落ちる様子が、携帯電話を見つめる視界の端に入った。視線を上げた瞬間、植松だと分かった。一緒のホームで働いたことはなかったが、顔だけは知っていた。

 額は汗でぐっしょりとぬれ、肩を大きく上下させて荒い息をつき、にやにやとした薄笑いを浮かべていた。血の付いた包丁を握り、刃先をこちらに向けていた。脳裏に死がちらついた。「動かないでくださいね」。植松は丁寧にそう言って、まず職員の携帯電話を取り上げた。壁に向かい合うように立たせ、結束バンドで廊下の手すりに職員を縛り付けた。

事件発生後の津久井やまゆり園(2016年7月26日) 写真=神奈川新聞社提供

 植松はすぐに大股で入所者の部屋に入っていった。扉の開く音に続いてうめき声や叫び声が次々に聞こえてきた。その声は静かなものもあれば、絶叫に近いものもあった。いくつかの部屋を回り、戻ってきた植松は近くの部屋を指さして「この人はしゃべれるんですか」「隣の部屋はどうなんですか」などと矢継ぎ早に尋ねた。職員が「しゃべれません」と答えると、植松は「こういう人たちっていらないですよね」と言いながら背中を向け、その部屋へと歩いていった。その後も扉が開く音とうめき声が交互に繰り返された。