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指し手の解説をしないコメントで勝負

――先に下座に着いていた澤田七段の姿を見て、対局室の入り口で佐々木七段が呆然として立ちすくんでいた、という描写でした。上座の譲り合いは、よくありますか?

深浦 ありますね。私も天彦さんと王と玉の譲り合いをしたことがあります。

――そういう譲り合いがあると、中継記者の方は「これはいただき」となるわけですね(笑)。次は順位戦B級2組の佐々木勇気七段vs横山泰明七段戦(45手)の牛蒡記者のコメントです。

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〈「わずかな歩の位置の違いが昇級を、棋士人生を左右する」
「棋譜コメ文学、ここにあり」、といった感があると思います。
 この短い一文で将棋の厳しさも順位戦の厳しさも、棋士の対局の厳しさも、全てが伝わってくるように思います〉(21歳/女性)

遠山 これはいいコメントですね。これは勝ったほうが昇級にグッと近づく文字通りの大一番だったんですよ。この方の「棋譜コメ文学、ここにあり」という表現もふるってますね。

深浦 なるほどねぇ。

Numberの将棋特集など、「読む将棋」という文化がすっかり根付いてきた(写真は、ジュンク堂書店池袋本店の将棋棚) ©文藝春秋

――いろんなコメントがありましたが、どれがよかったでしょうか。

遠山 最初に紹介された藤井vs松尾戦の4一銀は、どんなコメントがアップされるか待っていたんですよ。

――リアルタイムで?

遠山 ええ。見ていると何度か書いては消してと修正している。おそらく終局後に上野六段からコメントが入ることを計算して、あえて指し手の解説をしないコメントを入れたんじゃないかなと思うんです。あくまでも私の予測ですけどね。でも、ここでダラダラ手の解説を書くよりもいいんじゃないかなと。

――そこまで計算されていたと。

遠山 この文記者はトップクラスの中継記者なんですが、記者としてもここは勝負だったんじゃないでしょうか。

深浦 いいですね。

――では今年は、遠山先生の熱い推薦もありますので、藤井聡太二冠vs松尾歩八段戦の文記者コメントとさせていただきます。

受賞の言葉(文記者):
「ベスト棋譜コメ部門」に選んでいただけたこと、光栄に思います。この対局を担当できたことは幸運でした。最近は以前にも増して、棋譜中継が多くの方から注目されていると感じます。今回の受賞を励みに、より一層の努力を重ねていきたいと思います。

 こうして7部門を発表した「観る将アワード2020/2021」。イベント終了時には、深浦九段からも「1年を振り返る貴重なイベントですので、来年以降もぜひご参加いただければ大変嬉しく思います」というお言葉をいただいた。本当に今回ご投票くださったみなさん、改めてありがとうございました。

 今年度は、コロナ禍ということでオンラインイベントでしたが、来年はリアルイベントとしてみなさんと盛り上がることができればいいな――スタッフ一同の思いです。来年度の開催も楽しみにしていただければ嬉しく思います。

◆ ◆ ◆

 深浦康市九段のインタビュー、そして遠山雄亮六段のコラムは、文春将棋ムック『読む将棋2021』に掲載されています。

 人気棋士のインタビュー、コラム、コミックが一冊にまとまった、観る将ファンに向けた「読む将棋」の決定版(全144ページ)。現在、好評発売中です。

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