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《飛田新地のリアル》「かわい子ちゃん大通り」で出会った“冷たい手の女の子”「おじいさんがメキシコ人やと言ってた」

「さいごの色街 飛田」#5

2021/05/08
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軍資金3万円で「かわい子ちゃん大通り」の料亭へ

 夕方、飛田にほど近い阿倍野の居酒屋「明治屋」で待ち合わせ、軽くビールを飲みながら打ち合わせた。「料亭」の中の様子やおねえさんをウオッチングしてきてほしい、できれば後日の取材アポを取りつけてきてほしいという依頼を、分かった分かったと聞いていたIさんだったが、店内で突如、隣席の客につっかかったのだ。

「煙草消してんか。迷惑やねん」

 もとより煙草嫌いのIさんではあるが、別段禁煙でもないその店で、明らかに八つ当たりである。Iさんは飛田に行くはめになったことに、明らかにいらだっていたのだ。

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飛田新地の大門 ©️永田収

 飛田の、「かわい子ちゃん大通り」とDさんに聞いていた通りに面した料亭に、軍資金3万円を渡してIさんを送り込んだ後、私は近くの寿司屋で待った。そして、おかしな気分に襲われた。これも疑似恋愛なのかもしれないと思った。

 Iさんは私の恋人でも何でもない。単なる仕事仲間だ。なのに、もしかして今時分、Iさんが料亭の中でイタしている可能性もあると思うと、嫉妬を覚えたのだ。飛田通いの男たちの言う、おねえさんへの恋愛もどきの感覚に近いのだろうか。30分ほどして、Iさんが寿司屋に来た。

「あかん。後日の取材アポはとれへんかったわ。そやけど、いろいろ聞いてきたで」

 大役を終えたからか、饒舌だった。

24歳で独身の元OL「線の細いかわいい子。クオーターや」

「女の子が『着替えてきます』って言うから、『着替えなくていいよ。話を聞きたいだけやから。取材の代理の者やねん』と言って30分間ずっと話してたんよ。女の子は24歳で独身。前はOLしてた。この仕事に入って4、5年。神戸から通ってるって。色白で、線の細いかわいい子で、目が大きかった。おじいさんがメキシコ人やと言ってたから、クオーターや。ほんまにかわいい子やったで。海外旅行とブランド品が趣味なんやて。値段は20分1万5000円、30分2万円で、それに消費税5%がつく。女の子の取り分が50%で、あと経営者が40%、やり手ばあさんが10%。多い日は10人以上お客があるから、結構お金になると言ってた。店は12時きっかりに閉まる。それから自分で車を運転して神戸まで帰るねんて。僕、送って行ってあげたくなったわ」

飛田新地 ©️永田収

 ふ~ん。普段は理屈っぽいIさんが、女の子の身の上話を「作り話だと思えない」というその心理に、飛田の強力な吸引力を見た思いがしたが、せんべい布団が敷かれ、ちゃぶ台と座布団のある部屋というのも、おねえさんが「着替えてきます」というのも、他の人たちのヒアリングどおりだ。これだけの内容で、高い取材費だったと思いながら、私はIさんから「2万1000円也」と書かれた領収証を受け取った。その領収証には個人名と住所がミミズがはったような文字で書かれ、三文判が押されていた。