文春オンライン

《尼崎連続変死》喉骨と肋骨3本が折れ、体重は22キログラムに半減…暴力で家族を乗っ取った“恐怖支配”の実態

『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』より#1

2021/05/04

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会

note

「コンビニに連れていき、子供たちに欲しいものを選ばせたとき、あれもこれもと遠慮なくお菓子やオモチャを次々と買い物カゴに入れ、一度に5000円くらい遣ってました。いったいどういう育て方をしてきたのかと驚いた記憶があります」

A男とB子は床に正座させられ、殴られ罵倒された

 ともあれ、A男・B子家の親族らを招集させた家族会議は、前にも増して過激なものになった。旧知の記者は語る。

「美代子は自分専用のソファに座り、向かい側には親族らが、その脇でA男とB子は床に正座させられていたそうです。美代子が『お前はどう思ってんねや?』と尋ねて相手が答えると、『こいつはこう答えとるけど、お前はどう思てんねん?』と別の親族に振る。それを延々と繰り返すのです。また、A男やB子から気にくわない意見が返ってくると、美代子は自分で殴りつけるようになり、マサに命じて殴らせたりもしていました。美代子はよく自分が殴ったあとで、『あんたら、他人の私がこんだけ怒っとるのに身内は知らんぷりか』と言い、親族どうしで制裁を加えるように誘導したそうです」

ADVERTISEMENT

 11年1月中旬にC子(編集部注:B子の姉)の婚約者が暮らす高層マンションで開かれた会議では、子供たちの養育問題について話し合いが行なわれた。その席で美代子から回答を迫られ、何度も“ダメ出し”をされたA男が困ったあげく「(児童養護)施設に預かってもらうしかない」と答えたことがあった。「それでも親か」と激昂した美代子はA男に、「ここ(マンション13階)から飛び降りろ」と命じ、「(無理なら)うちが突き落としてやる」と恫喝した。さらにはマサに命じて、A男に激しい暴力をふるわせたのだった。

写真はイメージ ©iStock.com

 また、前述の記者によれば、肉体的な苦痛だけでなく、精神的な屈辱を与える手法も用いたという。

「ときには娘たちを部屋に呼び、正座させられている両親の姿を見せて、『お前らの親はこんなしょうもない奴らなんやで。よう見ときや』と、反抗できない彼らの前で侮辱したそうです。この家族会議は連日のように開かれ、しかも夜に始まり翌日昼ごろまで続けられました。寝ることは許されませんから、みな意識が朦朧となり、一刻も早くこの地獄から解放されたいと願い、美代子の理不尽な要求を呑んでしまうのです」

 参加者の意識が朦朧とするなか、美代子ひとりが目をギラギラと輝かせ、持論をまくしたてる。そのからくりが覚せい剤であるとわかれば、彼女のテンションの高さを理解できるが、当時の参加者は知る由もない。ただただ、その途轍もないエネルギーに圧倒された。そして畏怖した。

B子さんは元夫と姉から暴力をふるわれ煙草の火を顔に…

 まだ幼かった娘2人は美代子の影響を受け、いつしか父親のことを「A男」と呼び捨てるようになった。母親のことは当時彼女が手がけていたネットワークビジネスの会社名をもじって「××星人」と呼んだ。祖母であるD子さんに至っては「ババア」だった。

 美代子はA男とB子に、預かっている子供たちの生活費を要求した。そこでは谷本家のときと同じく、友人宅や金融機関をまわることを命じ、借金によって手にした現金数百万円を巻き上げた。