韓国初の連続殺人事件にして、10人もの犠牲者を出した「華城連続殺人事件」。同事件をモチーフとしたポン・ジュノ監督映画『殺人の追憶』を通じて、世界中を震撼させた。

 長い間、模倣犯が起こしたとされる8番目の事件を除き、9件の事件は未解決のままだったが、2019年9月、事態は急転する。DNA鑑定により、別の事件で服役中の男、イ・チュンジェが容疑者として浮上したのだ。

 イが未解決だった9件に加え、8件目の事件についても自白すると、8件目の犯人として20年間服役した男性の存在に焦点が当たることとなった。(前後編の後編/前編から読む)

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8件目の事件の再審で、真犯人が詳細に自白

 8番目の事件は「華城連続殺人事件」の中で唯一室内で起き、模倣犯罪とされたのは前述した通り。この事件の犯人とされたのは、農機具修理工だったユン・ソンヨ氏だった。

 ユン氏のえん罪の可能性が高まると、韓国社会は騒然となった。

 ユン氏は無期懲役となり20年間服役した後、模範囚として減刑され、2009年、仮釈放された。韓国の刑事法では、無期懲役囚で20年以上服役した模範囚の中で審議を通過した者に限り、仮釈放が可能となっている。

 ユン氏は出所後、華城市には戻らず、収監中から手を差し伸べてくれたシスターの家の近くに住まいを借りた。

 姉や弟に連絡することもなく、ただ黙々と仕事をし、ひっそりと暮しながら、聖堂に通っていた。再審が始まってから出演したテレビ(KBS)のドキュメンタリー『ソンヨ』では、「叔父も姉も弟もみな事件で苦労した。誰かを巻きこんでしまうかもしれないと思うと怖かった。だから人と会いたくなかった」と話している。

 イの自白からひと月後の2019年11月、ユン氏は再審を請求した。翌2020年1月には再審が開かれることが決定し、同年5月から裁判が始まった。

 8番目の事件で残されていた証拠品ではDNA鑑定が成立せず、イの自白が唯一の証拠とされた。裁判所は2020年11月、イを証人として出廷させた。ここでイは室内に侵入した経路について、当時は塀を越えたとされたが外門から侵入したこと、犯行に及んだ後下着を身につけさせたが逆に着せてしまったことなど、犯人にしかわかり得ない事実を詳細に語った。