特徴的なその症状
大動脈弁狭窄症の症状としては、他の弁膜症と同じように「疲れやすい」「疲れがとれない」「階段や坂道を登った時に息切れがする」などがあるが、進行すると狭心症と同じような「胸痛」が出たり、時には「失神」することもあるという。
「大動脈弁狭窄症は他の弁膜症より症状が出始めてからの進行が早く、胸痛が出ると5年以内、失神が起きると3年以内、心不全が起き始めると2年以内に適切な治療を受けないと、半数の人が亡くなってしまう――という報告があります」(田鎖医師、以下同)
渡辺は過去に虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症などの総称)で血管内治療を受けている。その時まさに「強い疲労」を経験していたことを当時のインタビューで答えている。経験者だけに今回は迅速に対応が取れたのかもしれない。
治療法は大きく二つ
大動脈弁狭窄症には、大きく二つの治療法がある。外科的手術と血管内治療だ。
外科的手術とはその名の通り、胸を切開して直接心臓にアプローチする治療法。狭窄を起こしている弁を人工弁に取り換えることになる。
「一般的には胸の中央をタテに20センチほど切開して手術しますが、近年は数センチの小さな穴をあけて行う“MICS(低侵襲心臓手術)”という術式を導入する施設もあります」
導入が進む血管内治療
一方の血管内治療は、かつて渡辺自身も受けている。足の付け根(鼠径部)や腕から血管内にカテーテルを挿入して処置する。狭心症などの場合は狭窄部を膨らませてステントを留置するが、弁膜症は壊れた弁の個所に人工弁を内側から装着する。
「小さく折りたたんだ人工弁をカテーテルで血管内から大動脈弁の場所まで持っていきます。傷んだ弁の内側から人工弁を開くことで、元の弁は圧し潰されて、新しい弁に置き換わる仕組み。人工弁は装着した瞬間から機能して、滞留していた血流が再開します」
この血管内治療を「TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)」とよび、近年導入が進んでいる。