人工弁には生体弁と機械弁の二種類
ただ、それぞれの治療には一長一短がある――と田鎖医師は指摘する。
「TAVIは手術と違って胸を切開することがないので、低侵襲治療(体へのダメージの小さな治療)として、おもに高齢の患者に広まっています。ただ新しい治療法なので、現状では治療から10年以上の成績が少なく、特に若い人に使用した場合の長期成績に不安が残ります。またTAVIで使える人工弁は生体弁に限られる、という問題もあります」
ここで出てきた「生体弁」とは人工弁の一種。手術にしても血管内治療にしても、傷んだ弁を人工的に作った弁に取り換える、という点は同じだ。そして、ここで使われる人工弁には、熱分解炭素材で作られた「機械弁」と、ウシやブタの生体組織を材料にして作られた「生体弁」の二種類があるのだ。
血管内に異物を挿入すると、その異物を中心に血液が凝固し始める。そのままでは血栓症を引き起こすので、それを防ぐためにワーファリンという血栓症予防薬を服用することになる。ただ、ワーファリンの服用期間は弁のタイプによって異なる。生体弁は2~3カ月の服用で終わるのに対して、機械弁は生涯にわたっての服用が必要となるのだ。
若い人には手術、高齢なら血管内治療が一般的
ワーファリンは弱すぎると血栓予防の効果が薄まり、強すぎると出血時に血が止まりにくくなってしまう。そのため長期間にわたって服用する人は定期的に血液検査を行って、適度な濃度を維持する必要がある。
弁の耐久性もタイプによって異なる。機械弁がほぼ半永久的とされているのに対して、生体弁は10年目あたりから劣化が始まるとされている。
「こうしたことから現在の治療ガイドラインでは、大動脈弁に関しては65歳以上の患者にはワーファリンの服用期間が短い生体弁を、60歳未満の患者には耐久性の高い機械弁を推奨しています」
ちなみに、手術か、それとも血管内治療か――についても、一定の選択基準が設けられている。
「治療効果が長く持続するという点では手術が、侵襲度の低さの点では血管内治療が有利です。そうしたことを考慮して、70代以下の人は手術、80歳以上には血管内治療、という棲み分けが一般的です」