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「5000万円ぐらいかかっている」“平成の政商”水谷功が実力派演歌歌手にプレゼントを贈り続けた“深い理由”

『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #28

2021/05/10

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

note

 一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。

 彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』(文春文庫)より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の2回目/前編を読む)

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芸能人、実力政治家、暴力団幹部から贈られた花束

 宮重大根のふとしく立てし宮柱は、ふろふきの熱田の神のみそなわす、七里のわたし浪ゆたかにして、来往の渡船難なく桑名につきたる悦びのあまり……

 泉鏡花が「歌行燈」で描いた三重県桑名の揖斐川沿いの旅籠風景である。船津屋という桑名随一の老舗料亭が、小説のモデルといわれる。その名門、船津屋で水谷功の還暦祝いが開かれた。2005年3月5日のことである。

「えーっ、本来なら、いの一番にオヤジが駆けつけなければならないところですが、申し訳ありません。井上と申します。水谷会長、還暦おめでとうございます」

 3階の大広間に集まった招待客を前にそう挨拶したのが、井上正幸だった。亀井静香の政策秘書である。秘書がオヤジと呼ぶ亀井はこの年、小泉純一郎政権の郵政民営化に反対して自民党を飛び出し、国民新党を旗揚げした。規制改革の流れを止める守旧派の頭目だと非難されても、いっこうに意に介さない。政界に地殻変動が起きるなか、キーマンとして騒乱の渦中に身をおいてきた亀井は多忙を極めていた。

亀井静香氏 ©文藝春秋

 そんな多忙のなかにあってなお、政策秘書を桑名に派遣するほど、水谷功とは縁が深い。ごく親しい政治家の1人とされる。

 水谷建設の会長だった水谷功の還暦パーティを収録したDVDが手元にある。平成の政商と称されるようになり、絶頂期に開かれた祝いの宴だ。水谷は東北地方でダム工事や原発事業に乗り出し、北朝鮮にまで行動範囲を広げようとしていた。そんな時期だけに、DVDにおさめられている光景は、いかにも華やかだ。

 恐らくこの日の船津屋は、貸切だったのだろう。玄関から廊下、階段、大広間……。ムービーカメラが、料亭の隅々までを舐めるように映し出す。そこには、色鮮やかな祝いの花がびっしりと並んだ。宴に寄せられた花だけを見ても、豪華絢爛である。

 梓みちよ、白竜、小川知子といった芸能人からはじまり、実力政治家の名前もある。かと思えば、関東と関西の二大広域暴力団幹部から贈呈された大きな胡蝶蘭までカメラがとらえている。政界で目を引くのが、「衆議院議員 安倍晋三」という札のついた蘭だ。カメラがそれをアップで撮っていた。