贈る着物は福島県知事の実家製
ひところの松原のぶえは、水谷建設のお抱え歌手のように、宴席があるたびにお呼びがかかっていた。その際、身につける衣装は、たいてい水谷功からのプレゼントだ。一世一代の還暦祝いパーティのときも、もちろんそうだった。
派手好みの水谷功は芸能人のタニマチとして、タレントの面倒を見てきた。ただし、松原のぶえへのプレゼントには、別の意味もある。松原とも親しい水谷建設関係者が、プレゼントの舞台裏を打ち明ける。
「水谷会長は、松原のぶえに何着も着物をプレゼントしています。事件で騒がれたころ、それが一着あたり1億円などと言われましたが、実際は1着400万円から500万円くらいだと思います。それでも全部合わせると、5000万円ぐらいかかっているでしょうね。すべて前福島県知事の実家が経営していた郡山三東スーツのグループでつくっていました」
事件とは、06年7月、前福島県知事の汚職がらみで水谷が摘発された法人税法違反(脱税)である。東京地検特捜部は、ダム工事の受注を狙った水谷建設が、前知事の実弟が経営する郡山三東スーツの所有地を相場より高値で購入したとして知事たちを摘発した。検察側が描いた元知事、佐藤栄佐久の収賄容疑における賄賂が、その土地購入取引だ。
だが、起訴後の公判では、土地購入の価格と相場との「差額が不明だ」と認定されてしまう。土地の購入価格が相場と変わらない可能性も否定できない、とされ、一審の東京地裁判決で、前知事は執行猶予判決を勝ち取る。2010年の厚労省の女性元局長の無罪事件ほどではないにしろ、これも検察の大きな汚点に数えられている。
しかし水谷側に下心がなかったかといえば、決してそうではない。実のところ、水谷建設による知事側への便宜供与は、土地取引だけではなかった。松原のぶえへの着物のプレゼントもその一つである。