一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。

 彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』(文春文庫)より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)

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関空談合屋の中国ツアー

〈関西国際空港第2期建設協力会〉

 そう宛名書きされた文書が手元にある。〈平成19(2007)年6月11日付〉。差出人は〈関西国際空港用地造成株式会社 代表取締役 古土井光昭〉とある。関西国際空港用地造成株式会社は、その社名が示すように、滑走路の造成を目的として設立された。関空や大阪府などが出資している。96年以降、ここが二期の埋め立て造成工事を担ってきた。ゼネコン各社にとっては大切な営業先だ。

 なかでもゼネコンにとっての重要人物が、旧運輸省第二港湾建設局長から天下り、専務に就任した古土井である。第二滑走路オープン後の10年7月に専務から退いたが、長らく工事を取り仕切ってきた。その剛腕ぶりが業界に鳴り響いていた人物だ。

 くだんの文書にある〈関西国際空港第2期建設協力会〉は、工事に携わってきた建設業者の集まりで、有体にいえば業務屋たちの集まりだ。文書は、関空造成会社の剛腕専務から業界に宛てられたものである。

〈皆様方のご努力で2期空港島の工事も進捗し、本年8月2日は新しい滑走路のオープンを迎える事になりました〉

 としてこう書かれている。

〈今般、2期空港島の用地造成の概成を記念し中国の主要空港を訪問し、空港関係者との技術交流を行うに当たり別紙のような計画を企画いたしました。

 関西国際空港2期事業に携わられた企業に貴協会からご紹介、ご案内頂ければ幸いです〉

 つまりは第二滑走路のオープンを記念した中国視察旅行である。ゼネコンの業務屋たちに声をかけ、半ば強制的に参加させている。これが不評を買った。参加業者が打ち明ける。

©iStock.com

「この旅行の発案者が二階さんで、古土井専務がそこに相乗りした格好だと聞いています。関空の二期工事は、ずっとこの二階、古土井のコンビが仕切ってきた。だから、こんな通知が来て断るわけにはいかない。湾岸・海洋工事を得意とするマリコンはもとより、一般のゼネコンも含め、一社あたり社員や役員を3人ぐらい旅行に出さなければならなかった。小沢さんが小沢ガールズを引き連れ、600人の大視察団で中国に乗り込んで話題になりましたが、それよりもずっと多かったと思います。訪中団は空港視察と称して五班に分けられ、北京や上海、西安などの空港を回りました。視察といっても、それだけ。その割に旅行代金がバカ高かった。本音を言えば、やってられませんでしたよ」