「ニューイサオミズタニで出直せ」
船津屋で開いた水谷の還暦パーティには、もう一つの狙いがあった。長男の御披露目だ。水谷功は本妻とのあいだに娘がいるが、息子はいない。愛人に産ませた長男を跡取りとして考えていたようだ。還暦祝いの場にその息子を呼び、水谷建設における経営の後継指名をした。
「ある人から、『水谷さん、還暦を盛大にやらなダメや』と言われました。『なんで?』と聞きましたら、『あなたは今まで悪いことばかりしとる。還暦のお祝いで生まれ変わってニューイサオミズタニになって出直せ』と言われ、この会を催しました。まあ、私の性格で、還暦を迎えてすぐにできるかわかりません。みなさま方に今日までご支援いただいた恩返しを少しでもして、そして私の後を長男坊主が立派に継いでやってくれることを、願っておるわけでございます。私同様足りない息子でございますが、一つよろしくお願いしたいなと思います。何年後かには、『水谷功さんも変わったな』と言われ、この長男坊主が、私の後を継いでくれることを願っておるわけでございます」
宴を盛りあげた松原のぶえ
DVDは、人気演歌歌手の松原のぶえを映し出す。宴のゲスト出演だ。「演歌みち」という持ち歌を熱唱する。松原が歌っている最中、水谷が衣装替えをして再び登場した。
なんと真っ赤なカウボーイ衣装をまとい、着ぐるみの馬にまたがった長男を引き連れている。馬はわざわざフジテレビの大道具から拝借したのだという。真っ赤なカウボーイ衣装は、この日のために35万円もかけて新調したそうだ。
そして、このあたりから還暦祝いが最高潮に達していく。
「その衣装は誰のデザインや?」
そうヤジが飛ぶと、水谷が答える。
「(衣装は)のぶえオフィスのマネージャーがデザインしたもんです」
大広間にハッピー・バースデイ・トゥ・ユーの合唱が響く。そのあと、水谷の隣の長男が短く挨拶した。
「おめでとうございます。これからもがんばってください。よろしくお願いします」
続いて、松原のぶえがコメントする。
「会長がこんなにも、真っ赤な衣装をうまく着こなせるとは思っていませんでして、びっくりしました。世の中広し、と言えども、これだけ真っ赤を着こなせるのは、会長と郵便ポストくらいかなぁと思っています」
さすがステージ慣れしているだけあって、ユーモアたっぷりだ。広間の座敷に笑い声がこだまする。松原のぶえは、美空ひばりの「真赤な太陽」をもじった替え歌「真赤な還暦」で、挨拶を締めくくった。