文春オンライン

2021/05/28

月経周期の乱れが、ストレスや犯罪行為につながると主張

 まず注目したいのは、「月経中」と「月経直前」の数値である。現在では、女性が精神に変調をきたしやすいのは「月経直前」と考えられているが、この統計を見る限りは、「月経直前」より「月経中」の方が、数値が高い。

 また、「無関係」という項目が設定されていることから、それ以外の項目はすべて月経と“関係あり”と、見なされていることがわかる。かりに月経期間を5日間とした場合、「月経直前」「月経中」「月経直後」を合わせれば10日ほどにもなるが、広瀬はこれに加え、「無月経(未潮、妊娠、授乳、閉経後、病的不明)」までも“月経と関係のある期間”と、見なしているのだ。

 最も注目すべきは、広瀬が一連の研究を通じて、無月経を含む月経周期の乱れが、ストレスや犯罪行為につながると主張している点である。ストレスによって月経周期が乱れることは多くの女性が経験していることだが、広瀬にとってはその逆も“有り”なのだ。

 だから、「睡眠時間の著しく減少する都会の生活、薬剤による性周期の調整、誤れる避妊方法」(*5)などによって生じる月経周期の乱れを犯罪への第一歩と見なし、生理休暇を取ることが「犯罪防止に連なるといっても過言ではない」(*6)とまで提案している。

*5 広瀬勝世「最近の女性犯罪をめぐる精神医学的検討」『法律のひろば』1973年6月号
*6 同*1

受刑者の約半数は女としての身体的条件を活用、主張したという見解も

 広瀬自身はこの調査結果について、「殺人や放火の如き熱情による犯罪の多いものにおいては、他の犯罪に比較して明らかに月経と関係ある如き数字を示している。月経と犯罪との関係が全く認められないものの数字が、窃盗や詐欺において高く示されている」と分析している。

 また「熱情」、つまり感情に支配されて行われる犯罪が月経前あるいは月経時に多い理由については、「感情的に敏感」な時期であるため、「怨恨、嫉妬、絶望等の精神反応」が抑制できなくなるためだと説明している。

 ところで、1970年代に約660人の女子受刑者を対象にアンケート調査を行った法学者の中谷瑾子(きんこ)は、「女子受刑者の約半数は女としての身体的条件(引用者注・月経、妊娠、妊娠中絶)を活用、主張し、そのうち4分の1は量刑上も考慮されている」(*7)という結論に至っている。

*7 中谷瑾子「女子受刑者の刑事手続に関する(意識)調査から見た女性犯罪と女性法曹の役割」『法学研究』49巻、1976年

 つまり自己申告に頼らざるを得ない「犯行時月経状態」についての調査結果には、かなりバイアスがかかっていると言えよう。

 さらに中谷が刑事法学者の後藤弘子とともに行った調査によれば、「女性殺人者の犯行について生理との関係が指摘されていたものは、325名中4名(1.2%)にすぎなかった」(*8)という。

*8 中谷瑾子・後藤弘子「紹介と批評」『法学研究』58巻、1985年

 ともあれ、ここで最も強調したいことは、女性が月経時、あるいはその前後に犯行に及んだからといって、犯行を即月経と結びつけることが、果たして適当だろうかということだ。