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初潮・無月経が犯行を決定づけるのか

 次に、広瀬による女性犯罪者の個別観察研究を検討してみよう。

 広瀬は1963(昭和38)年に発表した「性周期と非行」と題した論文で、月経が犯行に影響した例として6人の女性の事例を挙げ、分析している。

 一例目は、殺人未遂を犯した16歳の少女の事例である。たびたび人のものを盗んだため、「矯正と農事見習」とを兼ねて親戚の家に預けられたが、そこでも盗みを行ったため、その家の「老女」から厳しく叱責された。「ある時近隣多数の者のいる前で叱責されたので憤慨し、翌日早朝殺そうと考え、猫イラズを老女の使う茶碗に塗っておいたのを発見されて未遂におわったものである。初潮来潮後約1年近く経過していたころの月経中の出来事であった」。 

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 広瀬はこの事例について、「内気、無口、わがままで、気分が変わりやすく独居を好み、けんかっぽいという点の目だつ、かたよった性格に、高度な知能欠陥(痴愚)を伴っていた。したがって、元来抑制力に乏しいそれらの欠陥が盗癖となって現れていたのであろうが、初潮後約1年という心身の最も不安定な時期の月経という生理現象が、より一層感情の失調を大きくした」と分析している。

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 二例目は、「知能に異常はなく、性格的にも明るく活発な少女が、欠損家庭環境から不良の仲間に入り、受動的にその流れに押し流され」て家出、15歳で妊娠、出産、17歳のときに強盗殺人未遂を犯した少女の事例である。

 これについて広瀬は、「派手、勝気、活動的、冷淡、嘘つきなどの目だつ病的な性格であるが、分娩後1年半を経過し、その上授乳もろくにしていないのに、分娩以来無月経状態が続いていたのである。この例は15歳で初潮を見ているが、家出も妊娠も初潮来潮の年である点に注目すると同時に、その不安定な時期の不摂生な生活が性周期を乱し、無月経と同時に心身の失調状態が続いていたもの」と分析している。

 ここでもやはり、無月経が犯行を招いたとされている。犯行に至るような精神状態だったから無月経になったとは見なされていない。

初潮来潮2日目の事件

 三例目は、「初潮来潮2日目」に、殺人ならびに死体遺棄の罪を犯した18歳の少女の事例である。少女は住み込みで子守りの仕事をしていたが、家人から盗難の嫌疑をかけられていたたまれなくなり、無断で実家へ帰った。「父とともに暇を乞いに出かけたが、盗品を返さなければ荷物を渡さないと言われ更に1カ月を実家ですごし、ふたたび叔父と暇ごいにおもむいた際、偶然出てきた同家の息子(幼児)をハンカチで口をおさえ窒息死に陥らせて、屍体をその場におきざりにしたものである。初潮来潮2日目の事件であった」。

 これについて広瀬は、「精神薄弱に基づく心身の抵抗の低さが、たださえ動揺しやすい初潮時の精神状態をより一層不安定なものとしていた」と分析している。