文春オンライン

2021/05/28

「精神薄弱者」を犯罪者予備軍のように扱っていた

 一例目、三例目の広瀬の分析は、どちらも「初経期=精神不安定」という考えに基づいている。たしかに思春期自体が不安定な時期だとも言えるし、初経が少女に与える不安もあるだろう。しかしそれには当然ながら個人差があり、罪を犯すほどの精神状態になるとすれば極めて異例である。事例として示すのならば、多少なりとも月経との因果関係の説明が必要ではないだろうか。

 三例目では、「精神薄弱」との関連も指摘している。かつて多くの犯罪学者が「精神薄弱者」を犯罪者予備軍のように扱っていたのだ。1999(平成3)年に「精神薄弱」が「知的障害」と言い換えられるようになった背景には、こうした根強い偏見が存在していたのである。

 四例目は、19歳から25歳にかけて、窃盗で4回捕まっている女性の事例である。この女性は19歳頃から「月経直前1、2日くらいは他人の持っている物が無闇に欲しく」なったという。そして、4度の刑務所入所毎に拘禁状態という精神的抑圧から無月経となり、「衝動的、爆発性の性格特徴が目立ち、怒りっぽく、気が変わりやすく、些細なことから自分を制しきれず、よくけんか」をした。広瀬は入所による無月経が精神変調を招いたと分析している。

 刑務所などに拘禁されることによって生じる「無月経」は、「拘禁性無月経」として複数の研究者が報告しているが、広瀬が指摘するように、もし無月経が犯行を招くのであれば、女性犯罪者を刑務所に拘禁することは、更生という観点からは逆効果ということになってしまう。

PMDD(月経前不快気分障害)が影響している可能性も

 五例目は、20代後半に2度の窃盗で捕まった女性の事例である。「いつも月経の2、3日前から気分がいらいらし、その都度窃盗をくり返してみたくな」り、「数10回にわたる空巣窃盗はほとんどすべて月経直前(2日前くらい)から月経中にかけて」行われたという。

 最後の六例目は、23歳から41歳にかけて放火、殺人、窃盗などで6回捕まった女性の事例である。「月経の前日頃から月経にかけての2、3日はいらいらして立腹しやす」く、6回のうちの4回は、いずれも月経中の犯行だったという。

 四例目、五例目、六例目の女性たちは、月経直前から月経時にかけて反復して犯行に及んでいることから、第七章で述べるPMDD(月経前不快気分障害)が影響している可能性も考えられる。広瀬自身、1981(昭和56)年に研究の集大成として出版した『女性と犯罪』で、再びこれらの事例に言及し、「月経前緊張症(PMT)」という言葉を用いて分析している。