文春オンライン

2021/05/28

「月経要因説」と「PMS要因説」が混同されてしまった研究結果

 広瀬は以上の統計的研究と個別観察研究のほかに、エビング、ロンブローゾ、寺田精一といったかなり古い時代の研究者や、ダルトン、「月経前緊張症」を提唱したフランク、さらに小木貞孝、石川義博、小沼十寸穂(こぬまますほ)といった国内の同時代の精神医学者らの研究も踏まえて、月経は「病的な精神状態と結びついた場合に、犯行を決定づける一つの要素となることは確実である」と結論づけた。

「病的な精神状態と結びついた場合」という但し書きはあるものの、広瀬によれば女性は生殖機能という「重荷」を背負っているため、日常生活における様々なストレスによって、容易に精神疾患を発症するということだ。

 広瀬の研究は、エビングやロンブローゾ以来の月経要因説を前提として、それらを統計と事例、そしてPMSやPMTといった内分泌学の知見、つまりホルモンの影響によって裏づけようとしたものだった。

 広瀬が研究を行っていた時期は、ダルトンがロンドンに世界初のPMS診療科を開設し(1954年)、PMSと精神変調さらには犯罪との関連について精力的に啓発を行っていた時期と一致するため、最新の知見が取り入れられたと言える。しかしそのために、旧来の犯罪における「月経要因説」と「PMS要因説」が混同されてしまった感がある。

 いずれにしても、「わが国の女性犯罪研究の先駆者であり、同時に第一人者」(*9)と目された広瀬の「洗礼」を受けた月経要因説は、医学的装いのもと、以降の犯罪論に受け継がれていく。

*9 同*8

【続きを読む】“PMS”を理由に殺人事件が無罪に… 「女性」と「月経」に関する無理解はなぜ浸透してしまったのか

月経と犯罪

田中 ひかる

平凡社

2020年12月16日 発売

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