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連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

全身にはボツボツの斑点が…松永太が、被害者の衰弱死という殺害方法を選んだ理由とは

完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件 #56

2021/05/18

genre : ニュース, 社会

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 起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第56回)。

北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図

1996年2月26日、広田由紀夫さんが死亡

 福岡県北九州市の不動産会社員・広田由紀夫さん(仮名)が、松永太と緒方純子による虐待の結果、同市にある「片野マンション」(仮名)30×号室で死亡したのは、1996年2月26日のこと。

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 その死亡数日前の状況について、福岡地裁小倉支部で開かれた公判での判決文(以下、判決文)には次のようにある。

〈被告人両名(松永と緒方)は、由紀夫が死亡する2、3日前ころから、由紀夫が廃人のような状態になり、言動もおかしく、由紀夫を(寝起きさせていた)浴室から出すのが不安になったので、被告人両名も入浴せず、由紀夫を終始浴室内に閉じ込め続けた。松永は、緒方に対し、「ときどき浴室内の由紀夫の様子を見るように。」と指示した。緒方は、そのころ、由紀夫の様子を見るために浴室のドアを開けたところ、由紀夫がやにわに立ち上がり緒方の方に向かってくるような様子を見せたため怖くなり、そのことを松永に報告した〉

 続いて、死亡前の由紀夫さんの状況については、同公判での検察側の論告書(以下、論告書)に詳しい。

〈死亡当時の由紀夫の全身にはボツボツの斑点が出ており、死ぬ間際には平成8年(96年)1月上旬ころに撮影された写真よりも一層痩せていた。また、由紀夫の首も痩せて細くなり、筋が見えたようになっており、腹部はへこみ、足は非常に細くなっていて、目はギョロッとして力がなく、もはや自力ではふらふら歩くのがやっとの状態になっていた。まさかその日死んでしまうとは思わなかったが、このまま放置していれば由紀夫はいずれは死ぬのではないかと考えた〉

写真はイメージ ©️iStock.com

 当日午前7時に緒方が由紀夫さんの娘の清美さん(仮名)に声をかけて起こすと、由紀夫さんも目を覚ました。いつもは清美さんが起きた段階で、松永は由紀夫さんに浴室内での起立を続けるよう命じていたが、その日は「まだ寝ていていい」と言い、由紀夫さんはそのまま横になって寝ていたという。