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「骨まで切れない」「関節を外せ」荒川で発見されたバラバラ死体…“夫を殺す以外にない”追い込まれた妻の復讐

「骨まで切れない」「関節を外せ」荒川で発見されたバラバラ死体…“夫を殺す以外にない”追い込まれた妻の復讐

被害者が警察官、加害者が妻の教師 「荒川放水路バラバラ事件」 #2

2021/05/16
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なぜ「バラバラ殺人」は起こるのか

 では、どうしてバラバラにするのだろうか。「作田明遺稿集『精神医学とは何か?』」の「頻発する『バラバラ殺人』犯人の『心の闇』を解剖する」はバラバラ殺人の目的をほぼ5つに分けている。

(1)    遺体を隠す 遺体がそのままの形でなく、別の場所で発見され、上頭部など特徴的な部分が隠されていれば、捜査は難航するであろうし、時には身元不明者として迷宮入りになってしまうかもしれない。そうした可能性に期待を寄せてバラバラにすることは比較的理解しやすい

 

(2)    運搬しやすくするため

 

(3)    遺体の蘇生を恐れる気持ちから 被害者が生前、犯人よりも年齢や体力などのうえで優位に立っていた場合は特にそういう心理が働くことがある。女性が男性の遺体を解体するケースの一部にも当てはまる

 

(4)    被害者に対する犯人の憎しみの感情が激しく、その結果、遺体をめちゃくちゃに損壊してしまおうという感情に支配されることがある

 

(5)    遺体の解体が一種の快楽を呼び起こすケース。この中には性的興奮を求めるケースもある

 そのうえで同書は「最近、日本でバラバラ殺人が目立っているのは、女性が主犯、あるいは共犯者として関与しているケースが少なくないということである」と述べている。さらに、都市化という環境要因や、ひ弱で傷つきやすい一方で、自尊心が高く、自己中心的な行動をとりやすい自己愛的な人々が若者を中心に増えていることがバラバラ殺人の背景になっているかもしれないという。

 一方、中村希明「現代の犯罪心理」によれば、一般の人間にとってバラバラ事件がショッキングなのは、切り離された首や腕などの人体の一部に対する恐怖の原体験が、人類だけでなく類人猿にまで存在するからだという。それが強いブレーキとなってバラバラ事件はめったに起きなかったが、最近多発しているのは、その恐怖のブレーキが利かなくなったのか、と疑問を呈している。

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冨美子と鹿の「その後」

初公判で2人は起訴事実を認めた(朝日)

 冨美子と鹿に対する裁判は1952年7月11日、東京地裁で開かれ、2人は起訴事実を認めたが、弁護人は「鹿は冨美子の言う通りにするほかに道はなく、刑事責任は免れるべきだ」と鹿の無罪を主張した。

 その後、自宅や新荒川大橋などの犯行現場の検証や、かつての居住地の大阪、実父の居住地の山形で出張公判が開かれるなどした。同年9月17日の論告では「反省が見られない」などとして冨美子に無期懲役、鹿に懲役3年の求刑。そして同年10月28日の判決では冨美子に懲役12年、鹿に懲役1年6ヵ月が言い渡された。

判決を報じる朝日

 同日付朝日夕刊によれば、判決理由の中では、忠夫と冨美子の双方に事件につながる原因があったとしたうえで「かかる行為以外に手段はなかったか」と問い掛けた。2人とも控訴せず服罪。同年12月9日付夕刊読売には、鹿が12月1日、冨美子が3日に栃木女子刑務所に収容されたことを伝えた。

 大林茂喜「荒川放水路バラバラ事件」は岩田政義警部の回想として、鹿は翌1953年、尿毒症で獄中死。冨美子は1959年の「皇太子ご成婚」特赦で減刑され、7年の服役で出所した。「刑務所で習い覚えた洋裁を生かして、どこかで幸せに暮らしているという風のうわさはある」としている。

【参考文献】
▽本間清利「利根川」 埼玉新聞社 1978年
▽永井荷風「放水路」(1936年)=「荷風随筆集(上)」 岩波文庫 1960年=所収
▽絹田幸恵「荒川放水路物語」 新草出版 1990年
▽「警視庁史 昭和中編(上)」 警視庁史編さん委員会 1978年
▽岩田政義「鑑識捜査三十五年」 毎日新聞社 1960年
▽警察大学校「警察学論集」第52巻第12号 立花書房 1999年
▽警察大学校「警察学論集」第53巻第1号 立花書房 2000年
▽作田明「頻発する『バラバラ殺人』犯人の『心の闇』を解剖する」
 =「作田明遺稿集『精神医学とは何か』」世論時報社 2011年=所収 
▽中村希明「現代の犯罪心理」 講談社ブルーバックス 1995年

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

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