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サウナラボ神田で未来の日本のドアを開く

 高度経済成長を経て資本主義が行き詰まりを見せる中で、おりしもコロナ禍に見舞われ、我々は生活習慣の変更を余儀なくされた。そんな中、新たな価値観を生み出していこうという層も増えている。ライフスタイルの大きな転換点においてサウナの果たす役割、そしてサウナラボ神田に米田が込めた想い、それは……。

「糸井重里さんの『ほぼ日』もここから数分のところに、事務所を青山から移転しました。街が面白いからといってクリエイティブな人たちが集まってくると、また街が変わっていく。それって非常に都会的だなあって。東京が変わると日本が変わる。行き詰まりを迎えつつある日本社会が次に踏み出すための新たなドアを開くという意味でも、東京から変わっていくということが非常に重要なのかなと。自分ができることはサウナなので、体験しに来てくれた人たちが、それぞれの場所に帰っていって閉塞感のドアを開けてくれるんじゃないかってね。その力はサウナにはあるよね。

 それから特に女性に来てもらいたいと思っています。今の社会の閉塞感を変える原動力は女性なんですね。社会システムが変わるのはまだまだ時間がかかる、極端なことを言うともっとひどい目に遭わないと変えられない。本当はそんなんじゃダメなんですけど。女性は常に戦っているじゃないですか、現実と。だからサウナに入れば戦って負った傷もすこし癒えるんじゃないかなって。それでまた元気になって戦いに行ける。そういう安らぎの場所になればいいなと思うので。

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もうひとつは過去からの延長じゃなくて、新たになんか生み出そうとしてもがき苦しんでいる人たちの安らぎの場になればいいなと。サウナに行けば良いアイデアが出るというわけではないけど、もがき苦しんでるからこそ、ガチガチに固まった精神がサウナでパッと解放されてアイデアが出てくる。老若男女関係なくそういう人たちにも来てもらって、結果的にサウナで日本経済を救うぐらいに思っていますからね。それはうちだけじゃなくて全サウナに言えることだと思いますけど」

 米田の話を聞いていると、いち経営者というよりは思想家、宗教家のような思慮深さと、慈愛に満ちた、世の中、そして人への眼差しを感じる。

サウナはビジネスではなく“布教活動”

「フィンランドに行って、僕が実際に体験した“サウナの本質は自然と繋がる”ということを一番伝えたくて。僕がやっているのはサウナという宗教なので(笑)。経済活動じゃないんですよ。よく『ビジネスとしてどうですか』と聞かれるんですけど、『ビジネスじゃない、俺がやってることは』って答えてるんですよ。社会活動というか。『世の中をもっと心地いいものに変えたい、もっと人生心地よく過ごせるんじゃないか』ということなんですよ。力を抜きましょうという話。でも、そうすると逆にもっと力が出ますよね」

 サウナラボ神田には“自然とつながる”という米田の思想を体現した他に類を見ないサウナが存在する。日本で唯一の水の流れるサウナ室、「IKE SAUNA」もそのひとつ。暗く、ロウリュ音のみが響きわたるこの部屋は、なんと防水畳仕様になっており、まるで座禅の如く壁に向かい、自分と向き合いながらじっくり蒸される。このミニマル極まりない着想はどこからきているのだろうか。

「ここは昨年9月にオープンの予定だったんです。その時はIKE SAUNAは計画になかったんですが、コロナになり色々延期になった時に、家族で金沢にある日本の禅を世界に広めた鈴木大拙の記念館に行ったんです。谷口吉生の素晴らしい設計で、その鈴木大拙館に水鏡の庭というのがあるんです。一面の水の庭に定期的に波紋が発生するんですけど、そうすると水面はいったん乱れ、また元の静寂へと戻っていく。けれど水は、一箇所にはとどまらず絶えず変化しているから、先ほどまでの景色とは違うんです。それを座禅堂みたいなところから眺めたときに、『あっ、これ自分が思ってた絵だ』と。『ここには唯一サウナだけが足りない』って感じて。それで作ったのが、あのIKE SAUNAなんです」

これを手掛かりに具現化していく。もはやアーティスト集団
米田によるイメージイラスト