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性差別をなくしたい

「そんな重たい質問されてもねえ……(しばし無言)ちょっと答えられない。

 後から考えると『こうしたらよかった』『ああしたらよかった』ということもあるんですよ。1審2審最高裁と一所懸命やって、結果として無罪になったけれど、力不足のところはあります」

15年10月、20年ぶりに釈放されたBさんは母親と抱き合った

 鹿児島県出身。中学3年生の時に家族と大阪に移り住んだ。大阪市立大学法学部在学中に学生結婚し、2人の子どもが生まれた。その頃から司法試験の勉強を始め、下の子が小学校に入学した年に合格した。

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「私は男女雇用機会均等法以前の世代です。当時、4年制大学の女子の就職先は限られていました。私はどこか冒険的なところがあって、先に子どもを産んでから働くのでもいいんじゃないかと思っていました。でも子持ちで就職先を探そうとしても限られている。その点、資格試験は強いんです。それが司法試験だった。

 もともと怒りがあったんです。男性は仕事と家庭、どっちをとるなんてことはない。私の母はフルタイムで働いていましたけど、家事もしていました。何でなんだろうというもやもやがありました。そのうち、私の悩みは社会共通の悩みなんだと気づいたんです。

 だから弁護士になった時から、女性のための仕事をやりたい、性差別をなくしたいという思いがありました。女性だけ、結婚したとたんに査定で昇給に差をつけられるなんてことがありましたからね。それで女性の権利を守るための事務所を立ち上げました」

過去はどうあれ、無実の人が罰を受ける理由はない

 あらためて私は「女性を守るための法律事務所の弁護士が、結果的に、性的虐待をしていた男性を放火殺人で無罪にするために闘うことになったという、ある意味皮肉な巡り合わせを、どのように受け止めていますか?」と尋ねた。

 乗井弁護士はきっぱりと答えた。

「弁護士の仕事はそんなに単純なものじゃありませんよ。性暴力、性犯罪は、簡単に謝罪を受け入れるのは違和感がある。特に子どもへの性虐待は人生に与える影響が大きい。だから、それを使った捜査官への怒りがある。人間はいろんな間違いを犯します。その人にどう寄り添うか。Bさんが過去にそういうことがあっても、無実の人が罰を受ける理由はありません。弁護士として力を尽くしました」