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2つに分かれた支援者と弁護団

 乗井弁護士はそう語ったが、ことは複雑だった。そもそも、青木さんとBさんは同じ事件で同じ罪に問われたが、弁護団は別々に分かれていた。これについて乗井さんはこう語った。

「こちら(Bさん)の自白で相手(青木さん)を巻き込んだ形になっていますからね。でも弁護団同士の関係は悪くなかったですよ。特に再審になってからパワーアップしました。再審請求の準備段階から合同で会議をしていました。国家権力を相手にしているわけですからね。仲間うちでゴタゴタしていられませんよ」

16年8月、無罪判決に涙する青木さん

 しかし支援者はそうはいかなかった。支援団体は「『東住吉冤罪事件』を支援する会」という名で一本化されていた。しかしその中で青木さんを支援する人々、Bさんを支援する人々がそれぞれいて、双方の溝は深かった。これはやはり性的虐待の問題が背景にある。

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 Bさんを支援する人たちは、Bさんの母親が熱心に無実を訴える活動をしてきたことに共感している人が多い。Bさんの性的虐待については「昔のことをいつまでも言いつのるべきではない」という人や、「そんなことはなかった」と事実を認めようとしない人もいる。そして、青木さんが「自分は性的虐待の事実を利用して自白させられた」と言うことに批判的な態度を取る。

 一方、青木さんを支援する人たちの中には、Bさんについて「あんなことをした男は支援できない」と語る人もいる。同じ冤罪事件を闘ってきたのに、互いに反目し合う関係にあるという事態になっていた。

女性を守る弁護士がなぜ?

 乗井弁護士は、警察が性的虐待の事実を使って自白を迫るという手法を使ったことに怒りを隠さない。

「Bさんが(火事の1カ月後の)8月に警察に呼ばれた時に、その話(性的虐待)が出ています。そこで動揺しますよね。人から責められても仕方のないことがあったんだから。それが、捜査官に逆らえない関係を作った。これを公表するぞと脅されたとBさんは話しています。性的虐待は不問にするから放火殺人を認めろ、ということですね。警察のやり方に怒りを感じます」

 弁護士になって24年。そのうち実に20年間を、この事件に関わってきた。1審で無期懲役の判決が出ると、それまで主任だった先輩がこの事件から降りた。2審からは乗井さんが主任弁護士となり、ベテランの刑事弁護士の力を借りながら裁判を闘い抜いた。乗井さんの弁護士人生で、東住吉事件はどういう意味を持っているのだろう?