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Bさんの今

 Bさんは今、53歳。青木さんの2つ年下だ。SNSなどによると、無罪になったあと、大阪府内で暮らしながら、大阪芸術大学の通信教育部で学んでいる。時々、冤罪救済の団体の活動に参加しているが、青木さんのようには積極的に活動していない。青木さんが参加した「冤罪犠牲者の会」や「再審法改正をめざす市民の会」にも加わっていない。乗井弁護士は次のように話す。

「Bさんが無罪になったあと、『静かにした方がいいんじゃないですか?』と私の希望を伝えました。それはやはり、性的虐待のことがあるからです。いつまでも責めるべきではありませんが、やはり人前に出るべきではないでしょう」

 青木さんは国家賠償訴訟を起こしているが、Bさんは起こしていない。

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「それも同じです。弁護士が関わるのはここまで。そのあと本人がどうするかは本人が決めることです。私が会う理由もありません。風の便りで元気にしているとは聞いています。よかったと思います。ずっと気になっていました。長年かかわった人間の感情です」

この世にいない人

 今年7月22日。火事で亡くなっためぐちゃんの24回目の命日だ。青木さんは毎年、この日が近づくと体調がおかしくなる。鉛が体に入っているかのように重くなる。食欲もなくなり、ほとんど食べられなくなり、体重が減っていく。今年は特にきつかったという。この日はめぐちゃんの仏壇に供えるため、久しぶりにご飯を炊いた。

 この日、奈良県内にあるめぐちゃんのお墓へお参りした。息子夫婦も同行した。めぐちゃんが大好きだったひまわりの花を墓前に供える。

今年7月、めぐみさんの墓前にはひまわりを供えた

 青木さんは言う。

「(Bさんと)一緒に住まなければよかった。前の人と一緒だったら、めぐちゃんが傷つくことはなかったのに。後悔は消えないわ。自分の子をこんなに不幸にした。家って安らぎの場所なのに、そこで何があったかと思ったらぞっとする。あの頃、めぐちゃんが反抗的になった。『これで気づいてほしい』っていう気持ちだったんだろうな」

「あの男のことを憎めば憎むほど、自分が苦しくなる。自分に返ってくる。知り合ってしまった自分が悪い。一緒に住んだ自分が悪い。……だから考えない。あの男はこの世にいない人、そう思うの」

 めぐちゃんはもう本当にこの世にはいない。幸せになることもできない。青木さんの苦しみは晴れる時がない。

週刊文春WOMAN: 文春ムック

 

文藝春秋

2019年8月16日 発売