文春オンライン

特集観る将棋、読む将棋

藤井聡太棋聖に挑む“最強の挑戦者”渡辺明名人 リターンマッチは成功するか

藤井聡太棋聖に挑む“最強の挑戦者”渡辺明名人 リターンマッチは成功するか

過去のケースを分析してみると……

2021/05/28
note

大山康晴十五世名人と中原誠十六世名人が繰り広げた激闘

 タイトル戦同一カードの最長記録は、1970年の第9期十段戦から75年の第14期十段戦までに至る、大山康晴十五世名人―中原誠十六世名人の6期連続である。

タイトル戦を20回も戦っている大山康晴十五世名人(右)と中原誠十六世名人(左) ©文藝春秋

 その内訳は第9期で中原が挑戦し奪取、以降は大山が3期連続で挑戦し、3期目に奪取。だがその翌年の74年に中原が奪回し、翌年に大山の挑戦を退けた。

 6期のトータルは中原の5-1となるわけだが、当時20代の中原と50代を迎える大山という状況を考えると、大山の不撓不屈は超人的である。

ADVERTISEMENT

 このシリーズで、唯一大山が制した第12期十段戦。その第1局で大山は自戦記を書いているが、それには以下のようなくだりがある。

〈初めから全力投球で飛ばさなければ、自分より強い人には勝てっこない。五十にして、こういうことをいうと「何を今更」としかられそうだが、本当の気持ちだから仕方がない。雑誌に「勝負に生きるものは、やはり勝つべきだ。お金のためだけではない。優越感に浸って、偉がりたいためでもない。努力の実りがうれしいのだ」と書いたら、ある人にえらく褒められたが、これも自分の偽りない心境である〉

 第12期十段戦を4勝3敗で制した大山は50歳にして無冠を脱し、第1回の最優秀棋士賞を受賞した。

「最強世代」の名に恥じぬ活躍ぶり

 平成の大棋士と言えばまずは羽生善治九段が挙がるのは言うまでもない。羽生の偉大さは同世代に多くの強敵がいるにもかかわらず、ライバルを圧倒したことだろう。羽生善治、佐藤康光九段、森内俊之九段の3名はいずれも永世称号を有しているが、奨励会入会が同一年の棋士が複数人の永世称号有資格者となったのはこの3名のケースしかないのである。

羽生善治九段(左)と森内俊之九段(右)のタイトル戦は、これまで16回行われている ©文藝春秋

 2002年の第51期王将戦から第56期に至るまでの6年間は、この3名しか王将戦七番勝負に登場しなかった。第51期で佐藤が羽生から奪取、翌年に羽生が奪回。第53期は森内が奪取したが翌年に羽生がまたも奪回。第55、56期は羽生が佐藤の連続挑戦を退けた。これで羽生は王将獲得を通算10期とし、永世王将の資格を得るとともに大山、中原に次ぐ史上3人目の永世五冠となった。そして07年に森内が永世名人、佐藤が永世棋聖の資格を得る。「最強世代」の名に恥じぬ活躍ぶりである。