羽生マジックの衝撃を多くのファンに与えた
最強世代からその地位を奪いにかかったのが渡辺明である。2004年に森内から竜王を奪取し、その後も佐藤、羽生の挑戦を退けて史上初の永世竜王となった。
なかでも象徴的だったのが、11年の第59期王座戦だ。それまで19連覇中だった羽生に挑戦した渡辺はなんと3連勝で王座を奪取した。19連覇という数字からも王座は羽生の代表的なタイトルであり、ついに時代が動いたとまで言われた。
だがその翌年、羽生は再び渡辺の前に立つ。2勝1敗とリードして迎えた第4局、非勢の終盤で放った「△6六銀」の奇手は、指された瞬間が動画中継されていたこともあり、羽生マジックの衝撃を多くのファンに与えた。この手をきっかけとして千日手に持ち込むと、指し直し局は快勝で王座を奪回し、通算20期目の王座獲得となる。同一タイトルを20期獲得したのは大山康晴の王将20期に次ぐ、史上2例目で、羽生の王座獲得はその後24期まで伸びている。
リターンマッチで防衛と奪取は五分五分
これまでは年上とのタイトル戦が多かった渡辺だが、さすがに最近は年少者から挑戦を受ける立場にあることが多くなった。藤井に史上最年少タイトル獲得を許した昨年の棋聖戦が象徴的だろう。
両者がそれぞれ立場を変えて迎える五番勝負はどうなるか。過去35回あったリターンマッチのうち、奪回に成功したケースは16回と、防衛か奪取かはほぼ5割の確率だ。将棋界の頂上決戦を楽しみに見守りたいと思う。
将棋界のタイトル戦におけるリターンマッチ(前期に失冠したタイトルを奪い返しに行ったケース。なお挑戦失敗からの連続挑戦は含まない)は以下の通り。◎は奪回に成功した期。
・竜王戦で2度(◎第7期の羽生善治、第8期の佐藤康光)
・十段戦で5度(◎第8期、第10期、第14期の大山康晴、◎第13期の中原誠、第24期の米長邦雄)
・名人戦で5度(第17期の大山康晴、第57期の谷川浩司、◎第62期の森内俊之、第63期、第70期の羽生善治)
・王位戦で6度(◎第21期の中原誠、◎第26期の高橋道雄、◎第30期の谷川浩司、第35期の郷田真隆、第44期、第49期の羽生善治)
・王座戦で2度(◎第36期の中原誠、◎第60期の羽生善治)
・棋王戦で4度(◎第6期の米長邦雄、◎第13期の谷川浩司、第17期の南芳一、第35期の佐藤康光)
・王将戦で7度(第6期、◎第13期の大山康晴、第36期の中原誠、◎第40期の南芳一、第46期の谷川浩司、◎第52期、◎第54期の羽生善治)
・棋聖戦で4度(◎第9期、第18期の大山康晴、第63期の谷川浩司、第92期の渡辺明)