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「BTS関連のハッシュタグは1年で1億超え」 BTSのファン「ARMY」のPR能力はなぜ‟別格”なのか

『BTSとARMY わたしたちは連帯する』より#1

スレッド機能で熱量を伝える

 ファンはTwitterでBTSネタをたんに消費し漠然と過ごしていると思うのは、大きな間違いだ。TwitterはARMYにとって、外部のメディアに向けた一種の前線基地の役割を果たす。Twitter上でのARMYの活動を見て、メディアは記事を書く。ARMYのオタク活動は幅広く、教育と広報、ファンによる創作アートや寄附など、一言では説明できないほどさまざまな内容を含んでいる。このうち、Twitterを教育的な目的で最大限に活用しているのがスレッド広報だ。

 Twitterの投稿は140文字に制限されているため、短い言葉で感動を呼ぶメッセージが人気を集めることが多い。とはいえ、心を込めた長い話ができないわけでもない。ツイートの下にスレッドを作成すれば、まじめなテーマを長文で説明することが可能だ。ARMYは、TwitterでBTSに関心をしめした人たちにたいし、スレッド機能を積極的に利用する。

BTSのインスタグラムより

 テレビのトークショーや授賞式でBTSを見て興味を持った人のツイートには、100%に近い確率でBTSについて紹介するリプライ(返信)がつく。BTSのすべての音楽を、バラード、EDM、ヒップホップ、R&Bなどのジャンルに分け、それぞれの曲のミュージックビデオやストリーミングのURLを貼ったり、BTSのメッセージの重要性や社会的影響力、ファンダムの社会活動などをAからZまでカテゴリー別に説明したり。リプライをもらう人の負担にならないように「関心がある部分だけ読んでください」というコメントが親切に添えられていることもある。このようにスレッドで自分が推すアーティストを紹介するのは、他のアーティストのファンの間でも珍しいことではない。しかし、ARMYと他のアーティストのファンダムを比べると、違いがくっきりと浮かび上がる。

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 グラミー賞を主催するレコーディング・アカデミー(以下、グラミー)が、Twitterにこんな質問を投稿したことがある。「あなたの人生を変えたアルバムとは?」。いろいろなアーティストのファンがこのツイートに反応した。そんななか、BTSのアルバムを挙げたファンにたいし、いわゆるロックやフォークなど伝統的なジャンルが好きなアメリカ人と推定されるアカウントが「ジョークは止めて、真摯な音楽を挙げよう」と、上から目線のコメントをした。すると、このスレッドにARMYが一気に集まり、BTSの曲がいかに自分の人生を変えたのか、次々に証言を始めた。このグラミーのツイートは、リツイート(共有)よりもリプライ(返信)が2倍以上多いという、珍しいケースとなった。ARMYは他のファンダムに比べて、語りたいことが多く、自分の考えをはっきり述べる。歌詞とメッセージをひとつ一つ紐解き、それがどのように自らの人生に具体的な影響を与えたのかを説明するARMYに比べ、他のアーティストのファンは、歌のタイトルや簡潔な理由、写真やリンクのみをコメントする人がほとんどだった。