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「集団的な熱狂そのものが注目に値すべき現象」

 有史以来、推しについてもっとも語りたがるファンダム。国内外を問わず、他のファンダムがARMYにたいして驚く理由ナンバーワンは、おそらくBTSの音楽や歌詞に過剰ともいえるほど深い意味を与えて読み解こうとすることだろう。グラミーのツイートのリプライに記されたBTSの歌詞とメッセージに関する説明を読んだ他のアーティストのファン、または一般の人たちは、「曲にメッセージを込める歌手はたくさんいるのに、なぜBTSだけが唯一無二だと思うのか」とリアクションした。外から見ると、ARMYが大げさに騒いでいるように映る面もあるのは確かかもしれない。

 もちろん、高級芸術、大衆芸術を問わず、体制や文明批判のメッセージを盛り込んだ例は数えきれないほど多い。ザ・ビートルズもソテジワアイドゥルも、ピンク・フロイドもすべてそうだった。でも考えてみれば、それらのアーティストが歴史に名を刻んだ理由は、彼らの音楽が前代未聞のメッセージを発していたからではない。アーティストのメッセージがその時代を生きる大衆と深く共鳴できる内容かという、いわばタイミングの問題なのだ。

 ARMYのファンダムには、こんな言葉がある。「あなたが人生で一番必要としている瞬間に、BTSと出会ったのだ」。繰り返し強調するが、重要なのはタイミングだ。それぞれ人生のどの段階で、どこで出会ったかというタイミング、そして時代を取り巻く大衆の感情といかに呼応するかというタイミング。それらが時代のアイコンを生むカギだ。もし文化研究者として「他のアーティストに比べてBTSは何が特別でどこに着目すべきか」と問われたら、「彼らにたいする過剰なほどの集団的な熱狂そのものが注目に値すべき現象である」と答えるのが正解だろう。わたしたちが住んでいるのは、まさに現象がまた別の現象を生み出すポストモダン世界だからだ。このようなファンダムのおかげか、白人を優遇するといわれ「ホワイト・グラミー」と非難されるほど保守的だったレコーディング・アカデミーは、数か月後、BTSをグラミー・ミュージアムでのQ&Aセッションに招いた。ミュージアムのエグゼクティブ・ディレクターがBTSの音楽について真剣な質問を投げかけると、彼らは聡明に答え、深い印象を残した。そしてついに2019年2月、BTSは韓国のアーティストとして初めて、グラミー賞授賞式にプレゼンターとして登壇した。

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BTSとARMY わたしたちは連帯する

イ・ジヘン ,桑畑 優香

イースト・プレス

2021年2月17日 発売