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“若い女性記者を飼いならし、敵対する記者を完全把握” すべて計算ずくで指名する小池百合子流の“メディア・コントロール術”

『ハダカの東京都庁』より#1

2021/06/18

source : ノンフィクション出版

genre : 働き方, 社会, 読書

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数日前から始まる打ち合わせ

 想定問答の打ち合わせは会見の数日前から始まる。一発OKという場合は稀である。何度も練り直しをさせられる。想定問答には、テーマごとに各局から上がってくるものと知事サイドから指示するもの、さらに知事サイドが直接作成するものの3種類がある。特に、旬の話題や政治ネタは会見直前まで確定しない。

 午後1時55分、会見開始まで残り5分を切るまで、知事執務室の中では想定問答の資料に加筆訂正等が行われる。小池知事の言語感覚は鋭い。その場で想定問答のペーパーに鉛筆でさらっと、修正のフレーズを書き入れることもしばしばである。現役時代、私は何度も目撃しているが、敵ながら(?)天晴れと思ったことを覚えている。

 小池知事の自分の発する言葉へのこだわりは並大抵ではない。しかし、それは都民のことを考えてではない。言質を取られないように、言葉尻を捕まえられないように、細心の注意を払っているに過ぎないのだ。こうして自ら手を加えた付箋付きのファイルを抱え、神妙な面持ちで会見場に登場するのである。

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 6階会見場は知事定例会見で利用されるだけではない。新規事業や計画の発表時に担当者が説明会場として使用したり、外部の方が会見を開く場合(例えば、知事選への立候補表明や訴訟提起の発表など)もある。

 都の役人が最も恐れるのは、公金横領といった職員の重大な不祥事に関して、メディアに説明・謝罪する場として利用する時である。矢面に立つのは不祥事を起こした本人ではない。所属する局の幹部職員である。局長、所管部長、所管課長、人事担当課長といったフルキャストの責任者が並ぶこともある。

 このお馴染みの謝罪会見、民間では専門家などを交えて事前準備を綿密に行う場合もあると聞くが、都庁の場合はほぼぶっつけ本番である。そもそも個々の管理職にとって一生に一度あるかないかの経験だ。都庁内で謝罪会見のノウハウが蓄積・継承されているはずもない。だから、毎回、初心者集団によるしどろもどろの会見にならざるを得ない。