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2021/06/18

source : ノンフィクション出版

genre : 働き方, 社会, 読書

 記者と役人の関係はギブ・アンド・テイク、情報の貸し借りの世界である。ある時は意図的に情報を流し、ある時はその見返りに手心を加えてもらう。そうした駆け引きの中で記者は特ダネを狙ってくるのである。

 昔の副知事には腹の据わった人物もいたもので、自宅を訪れた新聞記者を招き入れ、酒と食事を共にしてそのまま自宅に泊まらせた挙句、翌日、公用車で都庁に一緒に出勤したというのだ。こんな芸当ができるのも、副知事が都庁の情報をすべてコントロールし、知事に代わってメディア対応を任されていた時代だからである。

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 だが、これは過去の話だ。現状のように、知事サイドが厳格な情報統制を敷き、情報漏洩の犯人探しに躍起になっているようでは、副知事の腹芸の出番はもはやない。小池知事の口癖の一つが「ワンボイスで!」である。裏を返せば、自分と違う意見や自分の知らない情報がメディアに流れてしまうことに、神経をとがらせている証左である。ワンボイス・イコール言論統制とまでは言わないが、どこかの国の独裁者が好みそうな言葉である。

夜討ち朝駆け

 それはさておき、市場移転問題にかかわっていた時期、こんなことがあった。当時の私は様々な記者との情報交換を時時刻刻、行っていた。ある晩、ひとりの新聞記者が私の自宅の呼び鈴を鳴らした。時刻はすでに午後8時を回っていた。私はまだ帰宅していなかった。

「どちら様ですか」と妻がインターホン越しに尋ねた。すると、「夜分にすみません。〇〇新聞ですが……」と答えが返ってきた。モニターを見ると、むさくるしい男が立っている。妻はこう返した。「え? あ、うち、新聞は間に合ってますから。△△新聞、取ってますから」

 そのあと、どんなやり取りがあったのかは知らないが、その記者からメールをもらった私が帰宅すると、玄関で記者と妻が楽しげに立ち話をしていた。わざわざお越しいただかなくても、と私が言うと、記者は苦笑いしながら、いえね、もっとザックバランにお話を聞きたいと思いまして、と分かったようで分からない理屈を口にした。

 夜討ち朝駆けは日常的だった。記者の方々も人の懐に飛び込む術を十分に把握していたのである。

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ハダカの東京都庁

澤 章

文藝春秋

2021年6月10日 発売

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