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 個室は家族やグループで賑やかに過ごせるから人気がある。もうひとつ、主流ではないけれど「ひと目に触れず、酒を飲みながら旅したい」という需要もあった。私が友人の「接待を伴う飲食店の従業員」から聞いた話では、「スペーシアの個室で飲みながら温泉に行こう」という誘い文句で何度か同伴したという。鉄道オタクでもないのにスペーシアを知っていると言うから、なぜかと聞いたらそんな話だった。あの業界でも「スペーシアの個室で鬼怒川温泉へ」は知られた話のようだ。

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競争から協調へ。「スペーシアきぬがわ」誕生

 一方、敗北した国鉄を引き継いだJR東日本は、相変わらず臨時列車を走らせる程度だった。伊豆方面に注力し、日光方面には消極的に見えた。スペーシアのシェアを奪うほどの取り組みはない。しかし、いま思えば、これが東武鉄道直通を見据えたリサーチだったかもしれない。競争より共栄を取ったわけだ。

 2006年3月のダイヤ改正で、JR東日本と東武鉄道を直通する特急列車「スペーシアきぬがわ」「日光」「きぬがわ」が設定された。「スペーシアきぬがわ」は、東武鉄道100系「スペーシア」を使用する。「日光」「きぬがわ」は、JR東日本側の車両を使う。当初は国鉄時代に製造された485系電車、189系電車だった。後にかつて成田エクスプレス用だった253系電車に交代して現在に至る。鉄道省から国鉄時代まで続いた長い競争時代は終わり、協調の時代がやってきた。歴史を知るものとして感慨深い。

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 JR東日本にとっては、東武鉄道に直通することで日光への速達ルートになる。全区間を自社線にしても東武鉄道に勝てないけれど、東武直通で便利になり、日光への観光客が増えれば、新宿~栗橋間の運賃をいただける。東武鉄道としても、都心のど真ん中の新宿を発着すれば、広範囲な集客が可能になる。また、路線網として離れた東武東上線と池袋でつながるというメリットもある。