スペーシアのJR新宿駅発着は2006年3月のJRダイヤ改正からだ。JR東北本線と東武日光線が乗り入れる栗橋駅でJRと東武鉄道の線路を接続し、新宿から栗橋駅まではJRの線路、栗橋駅から日光駅・鬼怒川温泉駅までは東武鉄道の線路を走る。JR側も直通車両を用意して、特急列車の相互直通運転が始まった。

 それから15年以上も経過した。スペーシアは製造から30年経ち、東武鉄道は「新たなフラッグシップ特急」を必要としている。新型が導入されると、JR東日本側の車両が見劣りしてバランスが取れない。未来に思いを馳せつつ、両者の良好な関係史を振り返る。

4人用コンパートメントが設置されている東武鉄道「スペーシア」 ©杉山淳一

新たなフラッグシップ特急車両として

 東武鉄道にとって次の課題は1720系の老朽化だった。国鉄と競争し、勝利を勝ち取ったデラックスロマンスカーも製造から30年が経過した。新型車両は東武鉄道の優位を不動にするという使命があった。

ADVERTISEMENT

 気になる動きとして、JR東日本は都心と日光方面を結ぶ臨時列車を走らせていた。1988年から多客期の臨時列車として、池袋発着の快速「日光号」が走り始めた。1989年には新宿発着となった。このまま成長すれば、JR東日本は日光行き特急を復活させるかもしれない。

 日光は訪日観光客にも人気がある。しかし、訪日観光客の多くはJRのジャパンレールパスを使う。東武鉄道にとって、列車のサービスは勝ったけれども、運賃・サービス面で完全勝利とはならない。だから、さらなる魅力的な列車を作り先手を打つ必要がある。

コロナ禍前には多くの訪日外国人観光客が訪れていた日光東照宮 ©iStock.com

 1990年。東武鉄道は新たなフラッグシップ特急車両として100系「スペーシア」を投入し、1720系「デラックスロマンスカー」をすべて入れ替えた。スペーシアは訪日観光客を意識した。内装に銀座東武ホテル(現・コートヤード・マリオット銀座東武ホテル)のデザイナーを起用し、6号車には4人用個室を6室用意した。個室、コンパートメントは海外の鉄道で採用されているけれども、戦後の私鉄車両としては初めての採用だった。