実際に泊まってみよう……!
さらに2020年には突如、川久所有の貯蔵品が一般公開されるとともに、川久の建築そのものを美術品と捉え、川久ミュージアムと称し、宿泊せずとも気軽にホテル内を見学できるようになった。これはぜひとも見てみたい。せっかくなので宿泊もしてみたいところだ。
大阪から特急で2時間半。
和歌山県、白浜駅に降り立った。
駅前では旅人を出迎えるように、商店群が立ちはだかっていた。
どの店も大きな看板を掲げ、私に向かってアピールしてくる。
めはり、さんま、まぐろ、梅干し…なじみのない名産品は、随分遠くまで来たんだなと旅情を感じるものだ。
看板、商店、アーケード…駅前を構成しているものすべてに、長い時を刻んできた形跡が見て取れる。古い建物が好きな私にとって、心躍る街並みだ。
同じ駅で降りた者の多くは、アドベンチャーワールド行きのバスに並び始める。アドベンチャーワールドでは最近、パンダの赤ちゃんが生まれたらしい。
私はといえば、人々と違う方向へと歩き、ひとりレンタカー店で車を借りる。店内では爽快感と疾走感でドライブを盛り上げるCDを貸し出していた。
走り出して5分もしないうちに、道路の脇にはヤシの木が並びはじめ、遠くには砂浜と海水浴場が見えてきた。海開きにはまだ早いが、気分は真夏だ。頭の中ではずっと、湘南乃風がループしている。
海岸沿いには巨大なリゾートホテルと小さな民宿が立ち並ぶ。肌寒い季節ということもあって、歩く人はほとんどいない。海水浴場のある中心部から離れるに従って、ホテルや店舗の数はまばらになり、よく見ると休業や閉業している店も目立つようになってきた。
その代わり、個人商店や学校、民家やアパートが増え、既視感のあるのどかな街並みになってきた。
貝殻を売る店、梅干し専門店、たばこ屋、民間車検工場、食品スーパーが並ぶ突き当りに、ホテル川久はそびえ立つ。周りの景色に馴染まない圧倒的な違和感は、わたしの好奇心を猛烈に惹きつけた。
いよいよオレンジ色の城を目の前にすると、これから王様に謁見するか、はたまたラスボスと対峙するかのような、緊張と高揚感が襲う。城を前に立ち止まり、気持ちを整え唾を飲む。勇者にでもなった気分だ。
目に映るものすべてが「豪華絢爛」
ホテルに近づくやいなやスタッフの方に案内された。ホテル内に通されるとまず驚くのがロビーだ。モザイクでできた床、大理石のような巨大な柱、金色に輝く大きな天井、目に映るものすべてが豪華絢爛で、歩くだけで高貴な気分になる。
目に映るすべて、最高級の材料と一流の職人が作った、ハリボテや見せかけではない正真正銘の本物だ。なんの知識もない私でさえ、その迫力に圧倒される。
まずは解説ガイドを片手にホテルを見学する。