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「あなたの年齢で勤められるのは介護職くらいでしょうね」 年下の入居者を介護する国立大卒男性(70)の“胸の内”

『非正規介護職員ヨボヨボ日記――当年60歳、排泄も入浴もお世話させていただきます』より #1

2021/06/23
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70歳の男性が面接即採用

 今でも年に何回か4名で会うと、あのころの話「パタカラ」で盛り上がる。あとで聞いた話だが、深沢さんが最高齢の生徒だと思っていたらスクールの卒業生にはさらに年上がいて驚いた。80代だったという。完全に介護される側にいてもおかしくない年齢。

 さてこの深沢さん、じつは最初に応募した施設で採用されたそうだ。信じられない話だが面接即決採用だったという。70歳の男性が即決。信じられない業界である。

 深沢さんの施設には彼より年下の利用者も多いらしい。

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 深沢さんはよく職場の体験や失敗談を話してくれた。「間違って、救急用のセキュリティのボタンを押してしまってね。管理会社のスタッフが駆けつけてくるし、ドアは施錠されて施設内は大混乱よ。重大事故(*6)扱いで、何枚も始末書を書かされたよ」

*6 重大事故1つの重大事故の背後に29の軽微な事故があり、さらにその背後に300のミスがある、これを「ハインリッヒの法則」という。転倒、薬の飲み間違い、異物を食べるなど、職員は入居者ごとに起こりそうな事故の予測をして、予防を心がける。ただ人間に失敗はつきもの。友人の介護職員は、自分の薬を間違って入居者に服用させた。大事には至らず彼は胸をなでおろしたという。

 そう言いながら笑っていた。笑い話では済まないと思うが、彼はどこまでも前向きな人物なのだ。

「亡くなる人も多いでしょ?」

 深沢さんの勤め先は、利用者80人規模の病院併設の施設だった。「そうだね、病院へ搬送されて戻ってくる人は1割程度かな。そのあとどうなったか、ほとんど知らないよ。スタッフも話題にもしないし。たまたま病院から戻ってきた人を見かけると、心の中で『この人しぶといな』とか、『生還したんだな』と思うけどね」「仕事、楽しいですか?」「楽しいとは言えないね。ミスしてよく叱られるし、でも仕事だからね」

 深沢さんは介護福祉士(*7)の資格を目指しているという。さらに勤続10年以上の介護福祉士には、給与を加算するという特定処遇改善などの国の施策も報じられているらしい。

*7 介護職の国家資格。試験を受けるには、3年以上の実務経験者か福祉系高校卒業が必要。ほかに養成施設からの受験ルートもあり。ほぼ正社員として雇用され、現場責任者として指導的な立場になることが多い。

 そのとき、彼は80歳超え。前向きにもほどがある、とまたしても感心してしまった。

 慢性的な人手不足の業界、やる気さえあれば誰でも就ける職業だと思う。体が丈夫で新たな職を探している方は年齢に関係なくチャレンジしてほしい。