毎日化粧をしてよく食べよく飲む100歳の入所者
児玉松代さんは施設の中でも最年長、御年100。彼女の個室の壁には内閣総理大臣から贈られた額縁入りの100歳祝いの賞状がかかっていた。
賞状が届いた日、彼女の部屋に入ると誇らしげに指さしてそれを見ろと言う。
「総理大臣からもらった賞状ですね。すごい」
私が感嘆の声を上げると、「でもね、年々お祝い金が減っているらしいよ」と大仏様のように指で丸をつくりニッと笑った。
なんといっても日本の100歳以上のお年寄り(*8)は8万人超えである。役所から節目の年にお祝い金が出るそうだが、財政難から金額は年々減少傾向にあるという。
*8 8万人のうち約9割が女性。日本人の平均寿命は女性が87.5歳、男性が81.4歳(2019年現在)。65歳以上の高齢者は人口の約3割で、今後まだまだ上昇するという。2025年には20歳から64歳までの人1.8人で65歳以上の人1人を支え面倒をみる計算になる。お祝い金どころではなくなりそうだ。
耳が遠く、ややピントはずれの部分はあったが、松代さんの頭はまだ十分しっかりしていた。
彼女は朝起きると、必ず化粧をした。
私の差し出す温かいおしぼりで顔を拭いた後、まず櫛で髪の毛を整えてから化粧水を顔につけ、小さな掌でパンパンと頬を叩く。それから白おしろい粉をつけ、最後に薄紅色の口紅をさす(*9)。その様子を見ている私に「毎日、死化粧ね」と冗談まで言う。
*9 100歳になってもきれいに薄化粧する人もいれば、引いてしまうほど厚化粧の人もいる。ある女性は手元がおぼつかず、口紅が唇から大幅にはみ出し、福笑いのようになった。思わず笑ったら、その日一日、彼女から無視された。
小食だったが、おかずは残さず平らげた。肉類、とくに鶏肉が好物で、総入れ歯のわりに、どんなものでもよく噛んで食べていた。そしてとにかくよく水分をとった。
吸いのみに入れた水やお茶を、目を閉じ、「もういいですよ」とこちらが止めるまでひたすら飲み続ける。たくさん水分をとるので、尿の量も小柄な体からは想像できないくらいに大量だった。そして彼女はほとんど便秘をすることがなかった。高齢者としては、とても珍しいケースである。それは十分に水分をとるからだと思われた。