しかし、この話はあまり信用できない。どんなに腹筋トレをがんばっても腰痛が改善されないことが多いからだ。むしろ、腰痛持ちの人が間違った腹筋トレーニングをしたりすると、かえって痛みを悪化させてしまうこともあるので注意が必要だ。
そもそも、腹筋が強いか弱いかは、直接的には腰痛には関係ない。
これに関しては、腹筋を鋼のように鍛え上げたアスリートにも腰痛持ちが多いことが何よりの証拠となるだろう。プロ野球選手にもプロサッカー選手にも腰痛に悩まされている人は山のようにいる。どんなに腹筋を鍛えても、腰痛になる人はなってしまうわけだから、腰痛の原因が別の部分にあるのは明らかだ。逆に、腹筋が弱いのにまったく腰痛にならない人も多い。
では、腰痛を引き起こす原因は何なのか。
いちばんの原因は、その人の姿勢にある。たとえば、普段から「反り腰」姿勢をとっている人は、その姿勢で立ったり歩いたりしているだけで大きな負担が腰にかかることになる。それに、前傾姿勢で歩くクセやひざを曲げて歩くクセ、重いカバンを持つときの姿勢や荷物を持ち上げるときの動作習慣なども腰への負担につながっていることが多い。そういった日々の生活での「腰に負担をかける姿勢」が年々積み重なって腰痛へとつながっていくのだ。
だから、いくら腹筋トレをやったとしても、こういった「腰に負担をかける姿勢」が改善されなければ腰痛が解消されることはない。
さらに言えば、仮に“腹筋が強いほうが腰痛を防ぐのに有利”だったとしても、トレーニングによって腹筋をガチガチに固めてしまうのは疑問だ。
私は、腹筋をはじめとした体幹の筋肉には、そのときの動きや衝撃に応じて、力を入れるべきときは入れ、力を抜くべきときは抜けるような柔軟性が必要だと考えている。ガチガチに固めるだけが能ではなく、その時その時にかかってくるプレッシャーに臨機応変に対応できるしなやかさがあるほうがいいのだ。
だから、腰痛をなんとかしたいというときに、腹筋トレに励んでコルセットでも巻いたかのように固めてしまうのはナンセンスだ。腰痛を防ぎ、腰を長持ちさせていくためには、腹筋は固めたままではいけないのである。
腹筋をガチガチに固めるとパフォーマンスが下がる!?
腰痛の有無にかかわらず、私は、腹筋をあまりに硬くしすぎるのは考えものだと思っている。
いったいなぜか。ここは順序立てて説明することにしよう。
まず大前提として、腹筋をはじめとした体幹の筋肉は、あらゆる運動動作の基本となる部分だ。よく知られるように、柔道・空手・剣道などの日本の武道においては、体の中心である「肚〈丹田〉」に力を込めることを古くから重視してきた。