「肚」に十分な力が入れば、おのずと軸がしっかりして姿勢やフォームが整ってくる。そして、姿勢やフォームが整えば、よりスムーズに、より大きな力を出すことができるようになっていく。そのため、どんな動きをするにしても、腹筋に「グッと力を込められる状態」にすることが「基本のキ」となるわけだ。
たとえば、テニスでサーブを打つときを想像してほしい。強いサーブを打つには、ボールをラケットで捉える瞬間、腹筋にグッと強く力を込めなくてはならない。これができているのとできていないのとでは段違いで、腹筋に力が入っていない場合、腕の力だけでラケットを振っているようなフォームになって、ひょろひょろっとした弱々しいサーブしか打てなくなってしまう。
このように、わたしたち人間の体は、腹筋をはじめとした体幹の筋肉をしっかり働かせていてこそ、スムーズかつ合理的に筋肉を動かして、高いパフォーマンスを発揮できるようになっている。だから、日々のトレーニングで体幹を鍛え、しっかり力を入れられる状態にしていくことは非常に大切なのだ。
しかし──。
腹筋・体幹が重要だからといってあまりにガチガチに固めすぎてしまうと、逆に体の動きを落とすという“ざんねんな結果”を招いてしまうのである。
その理由は、ガチガチに固めてしまうと、常に力が入りっぱなしのような状態となり、突然大きな衝撃がかかったときなどに、その衝撃を逃がすための“逃げ場”がなくなってくるからだ。とくにアスリートの場合、ボディコンタクトなどによって途方もないインパクトが腰にかかってくることが少なくない。そういった場合、「力をスッと抜く」という動きで、かかった衝撃の力をうまく逃がさないと、インパクトをまともに喰らい、腰の状態を悪化させてしまうことにつながりかねないのだ。
腹筋についての「基本のキ」
腹筋には、力を入れるべきときにはグッと力が入り、力を抜くべきときはスッと抜けるような“しなやかな柔軟性”が必要である。こうした柔軟性がなくなれば、当然ケガもしやすくなる。
だから、いくらシックス・パックやタテ割れがもてはやされているからといって、腹筋をガチガチに固めすぎてしまうのは考えものなのである。アスリートの中には、腹筋をガッチガチに固めて体幹がろくに動かないような状態にしてしまい、そのために体の動きを落としてパフォーマンスを低下させてしまうような人も少なくない。腹筋を固めすぎて動かなくしてしまうと、腰をひねったり腰をかがめたり丸めたりする動作もできにくくなってくる。まるで邪魔なコルセットでも装着しているかのように、体の動き全体がぎこちないものになっていってしまうのだ。
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