職人たちが仕事を選んだ理由

 職人たちは、単純作業に入ってだるそうになにかしゃべりはじめた。もともと、どの作業も忙しくびしびしこなす、というよりは、マイペースでこなしていた。「ちょろいぜ、こんなの」といった雰囲気。もしかして彼らが、私たちのことを〈だりーな。こいつらいつまでいるんだろう、カメラのフラッシュがパチパチまぶしいし、邪魔なんだよ〉なんて言ってたらどうしよう……?

「徳武さん、彼らなんて言ってるんですか」

「ああ、大丈夫です。冗談を言ってるだけですから」

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「私のこと、邪魔に思っていないですかね」

「全然大丈夫でございます。気になさらないでください」

「じゃ、彼らにこの仕事を選んだ理由を聞いてもらってもいいですか」

「はあはあ、デワに聞いてもらいましょう」(バリではインドネシア語が公用語だが、バリ人同士になるとバリ語で話す)。

 デワさんが、そんなこと、聞くまでもないというふうになにごとか答える。

「わかりました。あのですね、バリ人が仕事をするのは、その仕事が好きだからだそうです」

 ええ? それって建前ってヤツじゃあないのかい?

「あのですね、バリの人は仕事が嫌ならさっさと辞めてしまうんです」

 あ?

「この仕事は11時くらいに終わりますから、そのあとサロン(バリ人が腰に巻く布)を作る仕事をしたり、みんな別の仕事を持っていると言っています」

©iStock.com

 うっそおお。ダブルワーカーか。そんな働き者の男がバリにいたのか。だるそうに見えるけど、ものすごい働き者じゃん。しかも嫌ならやらないという風土が徹底した土地でだよ!? 彼らを見る目がすっかり変わってしまった。

「これね、バビグリン作るの、すごくむずかしそうに見えるんですけど、どれくらいの修練が必要なのか聞いてもらえますか」

 デワさんが即答で「大丈夫です。むずかしい、ないです」と言いながら、職人たちになにごとか告げると、職人たちも口々に「ガンパーン、ガンパーン」と笑って答える。

 ガンパーンは簡単という意味。はあ、ガンパーンですか。