職人たちが仕事を選んだ理由
職人たちは、単純作業に入ってだるそうになにかしゃべりはじめた。もともと、どの作業も忙しくびしびしこなす、というよりは、マイペースでこなしていた。「ちょろいぜ、こんなの」といった雰囲気。もしかして彼らが、私たちのことを〈だりーな。こいつらいつまでいるんだろう、カメラのフラッシュがパチパチまぶしいし、邪魔なんだよ〉なんて言ってたらどうしよう……?
「徳武さん、彼らなんて言ってるんですか」
「ああ、大丈夫です。冗談を言ってるだけですから」
「私のこと、邪魔に思っていないですかね」
「全然大丈夫でございます。気になさらないでください」
「じゃ、彼らにこの仕事を選んだ理由を聞いてもらってもいいですか」
「はあはあ、デワに聞いてもらいましょう」(バリではインドネシア語が公用語だが、バリ人同士になるとバリ語で話す)。
デワさんが、そんなこと、聞くまでもないというふうになにごとか答える。
「わかりました。あのですね、バリ人が仕事をするのは、その仕事が好きだからだそうです」
ええ? それって建前ってヤツじゃあないのかい?
「あのですね、バリの人は仕事が嫌ならさっさと辞めてしまうんです」
あ?
「この仕事は11時くらいに終わりますから、そのあとサロン(バリ人が腰に巻く布)を作る仕事をしたり、みんな別の仕事を持っていると言っています」
うっそおお。ダブルワーカーか。そんな働き者の男がバリにいたのか。だるそうに見えるけど、ものすごい働き者じゃん。しかも嫌ならやらないという風土が徹底した土地でだよ!? 彼らを見る目がすっかり変わってしまった。
「これね、バビグリン作るの、すごくむずかしそうに見えるんですけど、どれくらいの修練が必要なのか聞いてもらえますか」
デワさんが即答で「大丈夫です。むずかしい、ないです」と言いながら、職人たちになにごとか告げると、職人たちも口々に「ガンパーン、ガンパーン」と笑って答える。
ガンパーンは簡単という意味。はあ、ガンパーンですか。