腹を踏んで血を完全に出してから、肢を縛った紐を解き、体に柄杓でチョロチョロと熱湯をかけていく。毛がきゅうっと縮こまったところを、ココナツの殻をかみそりのようにあてて、毛を剃っていくのだ。すべて手作業なの?? 驚く私を尻目に職人は、耳もしっぽも顔もきれいに剃っていく。うわー楽しそう、やってみたい。デワさんの方を見ると、彼も同じ作業を自分で何度もやるからだろう、そうそう、その調子って感じにうなずいている。豚は真っ白になった。さらに肢も熱湯に浸けて、爪を外す。「ぴきょん」という妙にかわいい音がする。
下腹のところに切り込みを入れ、内臓をずるんと引っ張り出す。腹の中を空っぽにしたら水を入れて洗浄。ベションとお腹がへこみ、すっかり「豚」から「豚肉」になった。
このへこんだお腹にショウガやニンニクなど、約8種類の香辛料をすり下ろしたペーストをどんぶりいっぱい詰め込む。内臓が収まっていた空間の壁面にペーストをすり込むような感じだ。ノドの裂け目にもペーストを押し入れる。このペーストがおいしさの秘密であり、各店独自の調合がある。ペーストを突っ込んだら切り口を縫って閉じる。ビニールの荷造り紐でやってるのが気になる。あれ、溶けちゃうんだろうなあ……。そしていよいよアレだ。
油垂らして回る豚
豚の口から棒を突っ込み、お尻から出す。まず口を開けて棒を入れながら顎の骨を叩いて壊す。棒が半分入ったところで豚ごと垂直に立てて、豚の重さを利用してお尻に貫通させるのだ。なるほど、うまいもんだ。口や四肢がぶらんとしないようにワラで固定して、竈に設置。昔よく読んだおとぎ話に、〈豚の丸焼き〉って出てきたけれど、本当に本当の丸焼きを見るのははじめて。うわー。感動に打ち震える。
しかし、完成にはまだまだ遠い。焼くのも楽ではないのだ。1人が豚肉に魚油をかけつつ、棒をぐるーりぐるーり回し、1人が大きな団扇で扇いで火の大きさを加減する。焼き上がりまでおよそ2時間、このゆるーいリズムの反復作業をこなさねばならないのである。台は2頭いっぺんに焼けるスペースがある。ワザと時間をずらして、2頭目を火にかけた。2つの棒をぐるーりぐるーり。ばさーん、ばさーん。催眠術のようだ。