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連載昭和事件史

2021/06/27

「事実認定や量刑にまで介入してくる。憲法を破壊するものだ」

「この報告書が出るに至って、最高裁と参議院法務委員会とは決定的に対立するに至った」(「戦後政治裁判史録」)。「最高裁物語(上巻)」によれば、当時病床にあった最高裁の三淵忠彦長官は報告書を読んで「参院法務委員会は、封建思想の追放を旗印に、裁判所より一段高いところにいて事実認定や量刑にまで介入してくる。憲法を破壊するものだ」と怒りをあらわにしたという。実は三淵長官も前年、ケーディスGS次長から直接、司法権の独立についてハッパをかけられていた。

参院法務委調査に最高裁が反論した(読売)

 同年5月21日付朝日1面には「『法務委員会の越権』 最高裁 参院へ意見書提出」という3段の反論の記事が載った。参院法務委の調査は「憲法62条の国政調査権の範囲を逸脱してなされた違憲の措置である」と認め、参院議長に善処を求めた。内容は次のようだった。

憲法第62条に定める議院の国政に関する調査権は、国会または各議院が憲法上与えられている立法権、予算審議権などの適法な権限を行使するに当たり、その必要な資料を集取するための補充的権限にほかならない。

司法権は憲法上裁判所に専属するものであり、他の国家機関がその行使につき容喙(余計な口出し)、干渉するがごときは、憲法上絶対に許さるべきでない。この意味において、同(法務)委員会が個々の具体的裁判について事実認定もしくは量刑等の当否を審査、批判し、または司法部に対し指摘、勧告するなどの目的をもって前述のごとき行動に及んだことは、司法権の独立を侵害し、まさに憲法上国会に許された国政に関する調査権の範囲を逸脱する措置と言わなければならない。

 参院側も反撃した。5月25日付朝日1面には「最高裁こそ越権 参院側で声明」という記事が。声明は次のようだった。

参院法務委の再反論で対立はエスカレート(朝日)

1、最高裁判所の違憲法令審査権は、具体的な各個の事件につき、憲法違反の法令の適用を拒否するという。従って、最高裁判所が具体的事件の裁判としてでなく、裁判以外において国会や内閣の行動に関し、憲法問題につき意見を発表することは越権である

2、国会は国権の最高機関であって国の唯一の立法機関であることは憲法の明定するところである。従って憲法第62条の国会の国政調査権は、単に立法準備のためのみならず、国政の一部門たる司法の運営に関し調査、批判するなど、国政全般にわたって調査できる独立の権能である

3、いわゆる司法権の独立とは、裁判官が具体的事件の裁判をするに当たって、他の「容喙、干渉」を受けないことであって、いかなる批判をも免れ得るというものではなく、この国政調査権による調査、批判は、かえって国権作用の均衡と抑制の理論からも必要である。従って、既に確定判決を経て裁判官の手を離れた事件の調査のごときは少しも裁判の独立を侵すものではない

参院と裁判所、本気バトルの結末は?

 争点は既に現れているように、国政調査権と司法権の独立の問題。法務委員会側は、国会が国権の最高機関であることを盾に国政調査権の「独立権能説」をとなえ、裁判所側は「補充的権能説」に立って司法の独立を主張した。以後も伊藤・法務委員長が長文の見解を示すなど、論争が続いた。

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