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連載昭和事件史

2021/06/27

「罪を犯した女はどうすればいいのか」

 その後の充子については1949年5月30日付毎日社会面に「“生きる道を教えて……” 冷たい世間、更生を誓った夫は酒乱 浦和充子さんのその後」という記事が、かっぽう着姿の写真入りで載っている。「福島県江名町(現いわき市)にて」のクレジットで記事にはこうある。

国会喚問以降の充子を報じた毎日

 昨年7月、浦和地裁で懲役3年、3年間の執行猶予を言い渡されると、しばらく郷里・埼玉県北葛飾郡吉田村にいたが、周囲の目の厳しさを逃れ、今度こそまともになってもらう約束で、夫語助さん(36)とともに8月ごろ、語助さんの知人、茨城県多賀郡磯原町上相田の農家、柳生策之助さん方に身を寄せた。しばらくは更生の日々が続いたが、語助さんの行状はなおおさまらず、加えて昨年暮れから正月にかけて数回、彼女は参院法務委員会にも呼び出され、とうとうこの地でもうわさに上っていたたまれず、いまは一人ひそかに福島県磐城郡江名町伊ノ浦の料亭「松美」こと、榎本吉三さん方に実家の姓、岡田を名乗って働いている。

 

 しかし、ここでもまたうわさに上り、そればかりか、夫語助さんが酒気を帯びては月に数回も訪ねてきて復縁を迫り、あるときはビール瓶で殴られる騒ぎもあった。「私はもう誰とも再婚の意思はありません。新しく子どもが生まれれば、殺した子どものことが一層苦しみのタネになるばかりです。世間の目を逃れて静かに暮らそうとしているのに、そのたびに裁判所も参議院も私を研究材料に引き出している。私は一体どうなるのでしょう」

 

 いまは眉を引いて夜ごと漁師相手の酌を続けながら、彼女は誰に言うとなくこう抗議する。「私には国会の論争など、どうでもいい問題です。ただ、罪を犯した女の一生がこれからどうすればいいのか、それを教えてもらいたい。救ってもらいたい。世の中には、私と同じようなやくざな夫を持って、母子して泣いている不幸な女がたくさんいるはずです」。彼女は料亭「松美」の一室でこう語った。

 それから72年。彼女は戦後をどう生きたのだろうか。

【参考文献】
▽最高裁判所事務総局刑事局「刑事裁判資料第30号 司法権の独立と議院の国政調査権」1949年
▽ジャスティン・ウィリアムズ「マッカーサーの政治改革」 朝日新聞社 1989年
▽藤本一美編「国会機能論 国会の仕組みと運営」 法学書院 1990年
▽田中二郎・佐藤功・野村二郎「戦後政治裁判史録」 第一法規出版 1980年
▽山本祐司「最高裁物語(上巻)」 日本評論社 1994年

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 生々しいほどの強烈な事件、それを競い合って報道する新聞・雑誌、狂乱していく社会……。大正から昭和に入るころ、犯罪は現代と比べてひとつひとつが強烈な存在感を放っていました。

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小池 新

文藝春秋

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