注目されたのは、法務委が報告書の冒頭に挙げた、事件当時、充子が本当に生活苦だったかどうか、という点だ。委員長は充子が夫から事件前に現金計8000円(現在の約11万1000円)を受け取っていたことを衝く(「参議院法務委員会会議録第九号」より)。
委員長 最初の3000円(同約4万2000円)は着物を買ったのでしょうけれども、あとの5000円(同約7万円)という金をもらっておりますね。そうしてわずか3月いっぱいとしたところが17~18日分、4月5日までとしたところで20幾日分、その間5000円のお金があるから、生活は、あなた、できるじゃありませんか。
充子 その生活はそのときはできます。そうだけれど、おそらくそれから、あれからの夏を考えますと……。先のことばかり考えるものだから。
その後、再度尋問があった。
委員長 それであなたは結局、生活が苦しい、生活苦から子どもを殺したということになるんですか。
充子 いや、苦しくなってからいじめるのはイヤだったのです。それは、余りのコメが5合しかない。お金もないので、上の子どももしょっちゅうそれを聞かされているものですから、ご飯を食べるときに「かあちゃん、後があるの」と言われるとヒヤヒヤしたのです。
委員長 現実に、きょうこうコメがなくては3日も4日もひもじい思いをして、子どものやつれ果てた姿を見ては親としてもたまらんから、その場合はそういう気持ちを起こすことも考えられるけれども、また将来のことであって、きょうの生活に困っていないのに……。
充子 あの事件のときの立場でしたら、まだひと月はゆっくりやっていけます。
委員長 ひと月も取り越し苦労して、先に子どもを送ってしまうという手はないでしょう。
充子 だけれども、私の立場にならないと分からないのです。
「乞食までさせてみじめな思いをさせるんだったら、死んじゃった方がいいと思っております」
委員長らは生活苦が差し迫った状態でなかったことを強調。この点は、最高裁が参院法務委の調査結果を「あらかじめ結論を有し、予断をもってこの結論を裏付けようとする方向においてのみ行われている」と批判したこととつながる。それに対し、充子は、語助が家を売ったときから心中を考えていたと証言。「乞食までさせてみじめな思いをさせるんだったら、死んじゃった方がいいと思っております」と言い切った。
要点がはっきりしない充子の答弁に、法務委側は充子が本当に自分も死ぬ気があったのかという点と殺人の動機について立ち入って追及する。充子も法務委側の意図を察知したようだ。
充子 私としても殺したくありません。8年も骨折って育てて……。だから、はたの人の考えでは、私が一人になって楽をしたいからというふうにとられるらしいのですね。
委員長 どうも、そういうふうにも考えられるのですよ。
そして核心の尋問へ
委員長は充子の供述が、逮捕直後の「夫が賭博をやったり牛泥棒をしておりますので、何とか真人間にしてやる考えからこんな心を起こしてしまったのです」からその後、「子ども3人いたんでは生活ができないので、悪い気持ちを起こしたのであります」と変わったことを指摘している。