文春オンライン

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2021/07/02

 2019年に東京国立近代美術館で開催された『高畑勲展』の特別ゲストに呼ばれた細田守監督は、高畑勲との個人的な思い出や作品への思い入れを語りつつ(その映像は今もYouTubeで見ることができる)観客の質問に答え「自分は映像監督としては高畑勲より宮崎駿に近い」と語っているが、本来はメガヒットと相性が悪いはずの高畑勲作品のテーマ性と、ポスト宮崎駿とメディアが色めき立つ商業的成功を両立させているのが細田守作品の特異な所だ。

賛否両論を呼ぶ女性キャラクターの描き方

 だが一方、その商業的成功に比して、細田守作品への評価はネット上で賛否が分かれてきた。少女キャラクターをキャッチーなミューズとして消費しない作品の構造は多くの女性観客を獲得する一方、「女性キャラクターが活躍しない、出番がない」という不満も生まれる。

(ネタバレになるが)『サマーウォーズ』の宣伝ポスターで主役然と旗を持ち中心に立つ少女は、実は映画の中で主役ではないし、『未来のミライ』とタイトルに銘打たれた作品の主役は実はミライの兄・くんちゃんである。『おおかみこどもの雨と雪』のラストは弟である雨の母親からの自立で幕を閉じるのだが、女性観客から「えっ、姉の雪ちゃんは?」という声が出るのは無理からぬことだろう。

『おおかみこどもの雨と雪』より ©スタジオ地図

 少年を主人公にしたことによって、今度は少女の物語が置き去りにされてしまうというジレンマは、細田守作品に賛否を呼んできた。少女表象を消費しないことで女性に支持され、同時に少年をメインに描きすぎることで女性に批判されるという分裂に細田守作品の評価は揺れている。 

 最も近年の作品にもかかわらず、今回の金曜ロードショーの3週連続細田守作品のラインナップから外れた『未来のミライ』は、「父性と規範」をテーマにした作品だった。現代の豊かで優しい父母に育てられた甘えん坊の4歳男児・くんちゃんは、恐怖を乗り越えて自転車に乗ることができず、自分より幼く弱い妹への嫉妬を抑えることもできない。

『未来のミライ』より ©スタジオ地図

 未来から来た妹に導かれた主人公のくちゃんは、家系を遡り昔の母や曽祖父に出会いながら、妹を守る兄という自分のアイデンティティを見つけ、自立していく。それは4歳の男の幼児に、「豊かな社会の中で成熟できない男性性」を投影した寓話に思えた。 

 だが、このテーマが映画の中で十分に観客に伝わっていたかどうかは微妙だ。「戦前世代の男から父性を学ぶなんて危険な復古主義だ」という批判もあるだろう。