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山本は同盟締結に反対だった

 山本は、この条約調印前に、三国同盟に対し、強い疑義を呈している。

 締結に先立つ9月15日、海軍大臣、軍令部総長、軍事参議官、連合艦隊司令長官、第二艦隊司令長官、各鎮守府司令長官を集めて、海軍の態度を決定する首脳会議が開かれた。山本も上京、出席したが、その経緯は会議の名に値しないものだった。豊田海軍次官が司会し、阿部軍務局長が経過を説明すると、及川海相が断じる。

「今回の三国同盟に海軍が反対すれば、近衛内閣は崩壊し、その責任は海軍が取らねばならぬ」。

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 これに、伏見宮軍令部総長が応じた。

「ここまできたら仕方ないね」。

 まるで既成事実を押しつけるようなやり取りを聞いて、山本は立ち上がり、発言を求めた(反町栄一『人間山本五十六』ならびに『戦史叢書 大本営海軍部・聯合艦隊』、第一巻)。

「私は大臣に対して絶対に服従するものであります。只心配に堪えぬところがありますので、御訊ね申し上げます。〔原文改行〕8カ月前まで私が次官を勤めておった時の政府の物動計画は、その8割まで英米圏内の資材でまかなうことになっておりました。然るに三国同盟の成立したときには、英米よりの資材は必然的に入らぬ筈でありますが、その不足を補うため、どういう計画変更をやられたか、この点を聞かせて頂き、連合艦隊長官として任務を遂行して行きたいと存じます」(反町前掲書)。

 実のところ、山本は、日本の国力では対米戦の成算はない、ゆえにアメリカとの戦争を招くような同盟には反対すると主張すべく、上京する前に連合艦隊戦務参謀の渡辺安次中佐に命じて、日米の兵力(戦艦、空母、巡洋艦、航空機等)と戦略物資(石油、石炭、鉄、アルミニウム、銅、マグネシウムなど)を比較した表を作成させていたのである。だが、山本が持参した資料は無駄になった。及川海相は、山本の疑問に答えようとしないまま、同盟締結への賛成を求め、軍事参議官中最先任の大角岑生が首肯、他の出席者もそれに倣ったのである。会議終了後、山本に論難された及川は、「事情やむを得ないものがあるので、勘弁してくれ」と釈明した。それに対して、山本が「勘弁ですむか」と声を荒らげる一幕もあったと伝えられる(『戦史叢書 大本営海軍部・聯合艦隊』、第一巻。阿川『山本五十六』、文庫版、上巻)。