部屋は散らかり放題、探しているモノは見つからない――。発達障害を持つ人も持たない人も、頭を悩ます「片づけ」。
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本』(翔泳社)より、発達障害の当事者が教える、片づけられるようになる「ちょっとしたコツ」を抜粋します。(全2回の1回目/後編を読む)
事例―「物をどこに置いたかがわからない」
家の中にあるのはわかっているんだけど……
友人から「とてもいい海外旅行のプランを見付けたから一緒に行かないか?」と誘われたので、早速日程を合わせて申し込むことになった。「じゃあ、申込書を準備するね。パスポートの番号と有効期限が必要だから調べておいて」と言われたが、そのときになって「あれ? パスポート、どこにしまったっけ?」と困惑してしまった。
引き出しの中を開けてみたが、書類がグチャグチャに入っていてどこに何があるかさっぱりわからない。「もしかしたら本棚にあるファイルの中かも」と思って出そうとしたら、本と書類が雪崩を打って床に崩れ落ちてしまった。
以前にも、海外旅行に行く際にパスポートが見付からず、結局旅行に使ったかばんの底からクシャクシャになって出てきたことがあったので、それに懲りて「大事なものだから」とかばんから出して別のところへしまったのだが、そのことがかえって裏目に出てしまった。
子どもの頃から片付けは大の苦手で、よく失くし物をしていたが、今回ばかりはさすがにイライラして、「ああ、もう!」と思わず自分に向かって怒鳴りたくなってしまった。
原因―どうして物をどこに置いたかがわからなくなってしまうのか?
置き場所を決めていない、決めてもしまう習慣がない
こんなことを書くと「当たり前じゃないか」と言われそうだが、物は、基本的には自分からは動かない。裏を返せば、物は最後に使った人が使い終えた場所に置いてあるはずだ。しかし、日常生活を送る中で多くの情報に接していると、使ったものの場所をその都度覚えておくのは難しい。だからこそ、「置き場所を決める」「使い終わったら決めた場所へ戻す」 というルールが必要になる。
大半の人は、そのことを感覚的に理解して自然に物を片付ける習慣を身に付けるが、発達障害の傾向が強い人は、この原則を体得するのがとても困難だ。それは、空間や物への捉え方が感覚的に大半の人と異なることも理由にある。