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練習するほど悪化する

 職業性ジストニアでもっとも古いと言われるのが書痙(しょけい)だ。小説家や漫画家など、四六時中ペンを持つ職業の人が、ペンを持った時にだけ手首や指が反り返るなどし、線を描けなくなる。望月が説明する。

「細かい同じ動きをずっと続けていると、脳機能が不適応し、結果、エラーを起こしてしまうことがある」

 脳機能の不適応とは、どういうことか。

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 脳の中には、5本の指の感覚を司るそれぞれの独立した領域がある。この領域が、指のトレーニングを重ねれば重ねるほど拡大していき、つまりは発達し、隣り合う領域同士が重なってしまう。すると、伝達機能が混乱し、親指を動かそうとしたのに違う指が動いてしまったりする。それが望月が言う「不適応」であり、職業性ジストニアの原因の一つだ。

 同じ現象がイップスの場合も起きているというのが望月らの説だ。

「もし職業性ジストニアに近いイップス症状が出たら、まずは、休むのがいちばん。できなくなったからといって練習を繰り返したら、症状はさらに悪化します」

 職業性ジストニアは、ピアニストやギタリストなど音楽家にも多いことで知られている。音楽家の場合、100人に1人か2人くらいの割合で発症すると言われている。

 田中義人は、レミオロメン、ケツメイシといった何組もの有名アーティストと共演しているギタリストだ。彼は2014年夏ごろから、弦を弾く方の手、右手が外側に反り返ってしまう症状に悩まされるようになった。

「そのときは、自分が下手になったんだと思った。ギタリストの世界も競争が激しいですからね。なので、とにかく必死で練習をしました」

 が、練習をすればするほど手はうまく動かなくなっていったという。「ただ、あの時点で職業性ジストニアだということがわかっても、練習は休まなかったでしょうね。うかうかしていたらライバルに追い抜かれてしまいますから」