自分が立ち食い大衆そばを食べ歩くようになったきっかけは、中1の時、隣の席の女の子に「アンタバカなの? 頭の中空っぽ、空洞化!」とコケにされたことだった。それ以来、「俺って何?」(三田誠広の小説は『僕って何』)と自分探しを始め、たまたま大人たちが駅そばを食べているのを見て強い興味を持った、というわけである。まあ、その女の子は現役で東大文一に合格し、今はどこかの大学で教授をしているというから、60歳を過ぎた今でも反論すらできないのだが。さて、今回は自分のスカスカの脳細胞の話ではなく、実質のビッシリつまった純白の「豆腐をのせたそば」の話である。

そばと豆腐の製法の共通点

 豆腐は日本人から特に愛されている食べ物の1つである。その起源は中国とされており、遣唐使や鎌倉時代の僧侶が作り方を持ち帰ったという説がある。室町時代には各地に広まり江戸時代初期には木綿豆腐が、元禄年間には絹ごし豆腐が人気となり日常食となっていた。

 ところで、昔の豆腐は作るときに石臼を使っていた。そばの作り方と共通点があったわけである。石臼を使ったそばの製法は1241年、臨済宗の僧侶円爾が中国より持ち帰ったといういい伝えがあり、そばと豆腐はほぼ同時期に普及していった可能性が高い。

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 しかし、そばと豆腐がどんぶり内でコラボしたという話は文献上にはほとんどない。青森では大豆を搾った呉汁をそばのつなぎにした「津軽そば」が江戸時代から食べられていた。豆腐をのせたそばということになると、北海道や東北地方の一部、京都の老舗そば屋などで提供されている程度で、その発祥はそれほど古くないようである。また最近では豆乳をベースにした冷やがけそばや寄せ豆腐をアクセントにしたそばが、夏の食材とともに提供されて人気となっている。

 そんな中、東京近郊の一部の立ち食い大衆そば屋で「豆腐をのせたそば」が夏の時期ひそかに人気となっている。中には「豆腐一丁そば」なる大胆不敵なメニューもある。食べたことがない方はどんなそばを想像するだろうか。

「そばの上に豆腐がのってつゆをかけたもの?」「つゆは温かい・冷たい?」「豆腐は湯豆腐それとも冷奴?」などなど。そんな疑問に応えるべく、実際に「豆腐をのせたそば」をいくつか食べにいって報告してみようと思う。

箱根そばの「夏の風物詩」

「箱根そば」で「豆腐一丁そば」(480円)が始まったのは今から30年以上も前のことである。昔から愛され続けているロングラン商品。「箱根そば」の夏の風物詩といってよい。