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「これしかやらない」超アナログな大手スーパーのデジタル化が成功 きっかけはトップの“ひと言”

「これしかやらない」超アナログな大手スーパーのデジタル化が成功 きっかけはトップの“ひと言”

#2

2021/08/16
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 また、対馬さんにとってSlackの導入は、組織内部の問題だけでなく、コンシューマーのスピードに合わせていくことも目的のひとつでした。目線を変えれば、コープさっぽろの組合員(ユーザー)はほとんどが日常的にスマホでチャットをしたり、LINEをしたりしながらECサイトでも買い物をする人たちなわけです。そうした組合員たちが当たり前に享受しているデジタルツールの便利さを率先して体感していかなければ、新しいサービスは見えてこない。もっともな発想だと私も膝を打ちました。

1人もいないエンジニアを「30人採用する」と発表

——もうひとつの核は、ITベンダーやシステムインテグレーターへの丸投げ体質を改善し、「内製化」を進めたことですね。

酒井 内製化とは、ITの企画、開発、運用に至るまでを自社が主導権を持って遂行することです。2020年3月、コープさっぽろは内製化に舵を切るため、1人もいないエンジニアを「30人採用する」と発表しました。しかし、いまや優秀なエンジニアは引く手あまたです。ましてや北海道のアナログ組織が30人のエンジニアを採用するのは困難かに思われました。

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コープさっぽろ物流センター、オートストアのロボット点検中 ©酒井真弓

 が、蓋を開けてみれば、都内からの移住も含め、1年足らずで17人のエンジニアが仲間入りしているのです。対馬さんは「暮らしに直結する事業を営んでいることがポイントではないか」と言っていました。「誰かの役に立ちたいとか、地域に貢献したいと考えているエンジニアは、自然と現場に足を運び、自分の目や耳で現実を知ろうとします」ともおっしゃっていました。

 彼らが56年の歴史で無自覚に膨張してしまったレガシーシステムを前にして、その牙城をどう切り崩すのか。今後が非常に楽しみです。

イカセンター版「ウイイレ」を作れ!

——第2章では居酒屋代表として「イカセンター」のDXも取り上げられています。

酒井 はい。イカセンターは東京・神奈川に7店舗を展開する海鮮居酒屋で、水揚げされたばかりの新鮮なイカ料理を食べられるので人気なわけですが、その秘訣にはコンピュータを駆使した配送システムがあるんですね。

 イカって想像以上に繊細な生き物で、輸送にともなう振動や住環境の変化に興奮してパニックを起こし、自分が吐いた墨とアンモニアによって絶命してしまうのだそうです。イカセンターでは、海水濃度や温度、酸素濃度などを微調整する試行錯誤を繰り返し、現在は、特注の「イカトラック」4台を擁して、イカがストレスを感じない環境をコンピュータ制御によって維持しながら運んでいるんです。

イカセンターのイカ ©酒井真弓

——そんなイカセンターがなぜDXに取り組んだかといえば、まさにそのイカの原価の高コストにあったわけですね。

酒井 共同代表の伊藤尚毅さんによれば、調達のコストパフォーマンスがよいとはいえ、「高級料亭と同等の食材を使っているので、原価は非常に高い。他のコストをかなりコントロールしないと経営が成り立たない」という。そこで彼が目を付けたのが人件費でした。飲食店の2大コストは「原価」と「人件費」なんですね。