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「これしかやらない」超アナログな大手スーパーのデジタル化が成功 きっかけはトップの“ひと言”

「これしかやらない」超アナログな大手スーパーのデジタル化が成功 きっかけはトップの“ひと言”

#2

2021/08/16
note

——外部から招聘したDX人材と、伊藤さんが2人でタッグを組んで、会社を変革していく過程が描かれています。

酒井 DX人材の石川陽一さんは、auカブコム証券でシステム統括役員補佐をしながら、副業でイカセンターと関連企業のデジタル化に携わっています。やっぱりDX人材と、社内の人とのあいだに共通するビジョンがあったのがよかった。そうして、イカセンターのDXは「ウイイレ」を作ることに辿り着いたのです。

アナログな「ホワイトボード会議」をやめる

——「ウイイレ」って、サッカーゲームの「ウイニングイレブン」ですか?

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酒井 はい。これまでイカセンターの経営会議では、店の繁盛ぶりや経営状態をホワイトボードに貼り出して、そこにスタッフの方の名前を書いたマグネットを貼りつけながら、「最適な布陣」をセレクトしていたそうなんです。実際にスタッフの名前の記されたマグネットを移動させて、「この布陣だと人件費が高すぎる」といった侃々諤々の議論を毎度続けていた。

 でも、このアナログなやり方だと、たとえば「この人は調理スキルは高いが、接客は苦手」「このスタッフと、あのスタッフを組ませてはまずい」というような、定量化できない情報は可視化されない。結局、みんな「自分の感覚」で話してしまうんです。だから、モヤモヤが残るし、会議の時間も長くなってしまう。

 それで、DXの一環として「各店舗の原価と人件費、スタッフそれぞれの強みと弱み、売り上げのバランスなどを全部見ながら議論する」ためのツールを開発する、というビジョンができたんです。

イカセンター会議でのホワイトボード

「接客」「調理」「意欲」「協調性」を5段階評価

——それが「ウイイレ」のフォーメーション作りに似ている、と。

酒井 そもそも伊藤さんが「ウイイレ」好きだったのです。「ウイイレ」にはプロサッカーチームの「経営者モード」というのがあって、誰をどこに配置すると、そのときのチームの総戦力値がいくらで、年俸総額がどれくらいといったフォーメーションをシミュレートできるんです。その「経営者モード」のようなツールがあれば、各店舗の戦力バランスの見える化と、人材配置のシミュレーションができると考えたんですね。

 各スタッフの「接客スキル」「調理スキル」「意欲・姿勢」「協調性」を5段階評価で表した値と、各店舗の全取引データを掛けあわせて分析する。DX担当の石川さんは「イカセンター版ウイニングイレブン」を作るために、Tableau(タブロー)、そしてPower BI(パワービーアイ)というBI(ビジネス・インテリジェンス)ツールを使いまくったんです。それで、その感想を伊藤さんとその都度、話しながら試行錯誤を続けていきました。

 伊藤さんは「原価と人件費、スタッフのスキルと業績のバランスを見て、シミュレーションしたら、きっと意外なところに落とし穴がある。それを知りたい」ともおっしゃっていました。ただ、彼はデータばかりにこだわる経営者ではないと思います。私が取材にうかがったとき、美味しいイカをたくさんご馳走してくれて、一緒に食べながらお話ししました。伊藤さんは「やっぱり美味しいなあ!」と言いながら、笑っていました。お店への愛情と商品への自信に溢れているんですね。その根っこがあってのDXなのだと思いました。