1961年(93分)/東映/4950円(税込)

 東映創立七十周年を記念して、東映ビデオがこの七月から旧作邦画のDVDを次々と発売してくれている。

 そのラインナップには前回の『博徒七人』、前々回の『怪猫トルコ風呂』のようなソフト化自体が初となるカルト作品が並ぶ一方、メジャー作品のはずなのになぜかこれまでDVD化されてこなかった映画も含まれている。

 今回取り上げる『家光と彦左と一心太助』もそんな一本。

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 威勢の良い江戸っ子の魚屋・一心太助を中村錦之助が演じ、沢島忠監督が撮った一連の作品は東映時代劇の黄金時代を代表する時代劇シリーズの一つだった。中でも本作はシリーズ最高傑作としての呼び声も高い作品。にもかかわらず、これまでVHSは出ていたしシリーズの他の作品がDVD化されていたものの、なぜか本作はこれまでDVDにならないできた。それが、ついに発売になった。

 二代将軍秀忠の時代。「天下の御意見番」を自称して老いてなお幕政にも睨みを利かせる旗本・大久保彦左衛門の屋敷に太助は出入りして魚を卸していた。情にもろくて喧嘩っ早くておっちょこちょい――そんな理想的な江戸っ子像といえる太助は、持ち前の正義感で彦左衛門と組んでさまざまな事件に挑む。このシリーズはそんな太助の活躍が軽快なコメディタッチで描かれ、アクションあり恋あり人情あり、東映時代劇の大らかさを象徴する内容だった。

 本作はシリーズ四作目。錦之助が太助と家光の二役を演じ、三代の跡目争いを巡る陰謀というスケールの大きな設定で物語が展開されていく。

 弟の忠長(中村嘉葎雄)を推す勢力により、家光の暗殺が図られた。家光と太助の見た目がそっくりなことに気づいた彦左衛門(進藤英太郎)は家光の身を守るべく、二人を入れ替える策を思いつく。家光は太助として市井で、太助は家光として城内で、それぞれ暮らすことになった。

 身分も生き方も全く異なる太助と家光はもちろん、家光のふりをする太助(殿様の所作がまるで様にならない)、太助のふりをする家光(町人なのに折り目正し過ぎる)を合わせた、錦之助による四様の演じ分けが見事。それぞれのギャップが沢島監督ならではの猛烈なテンポの演出の織り成す賑やかさに乗せられて、捧腹絶倒の笑いを巻き起こす。

 江戸城本丸や魚河岸の巨大なセットに昨今の時代劇ではまず見られない大量のエキストラがひしめき、とにかく文字通りの「お祭り騒ぎ」が展開。サスペンスや人情噺も心地よく入り込み、最初から最後までずっとワクワクできる。

 この幸せな気分、この機会にぜひとも浸ってほしい。

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