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高齢者を青酸カリで次々に殺害した“筧千佐子”の意外な過去「子供2人とも私立大学に通わせた」「分家の嫁として虐げられ…」

『連続殺人犯』より#3

2021/08/16

source : 文春文庫

genre : 読書, 社会

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入籍して1ヶ月経たないうちに死亡

 この前後から千佐子と結婚や交際をする相手の時期が重複するようになり、やがて出会いから死亡までの間隔が狭まってくる。

 末松さんが入退院を繰り返すなか、08年3月には、その約1年前から交際していた奈良市の(5)大仁田隆之さんが自宅で倒れて死亡する。千佐子は大仁田さんの通夜の席で、07年12月に作成された公正証書遺言の存在を盾に、彼の親族に対して遺産を要求した。じつはこの公正証書遺言は、先の末松さんが救急搬送されたわずか一週間後に作成されたものだった。大仁田さんの兄弟は語る。

「土地や現金などの遺産については(大仁田さんの)息子との話し合いになった。たぶん折半(せっぱん)になったと思います」

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 千佐子は大仁田さんが死亡した翌月であり、彼の息子と遺産について話し合っていたであろう同年4月に、07年から交際していた松原市の(6)山口俊哉さんと入籍した。すると山口さんは、入籍して1カ月しか経たない5月に死亡する。

©iStock.com

 これも後に明らかになったことだが、この時期の千佐子は、末松さんから彼女への多額の融資を知り、追及してきた彼の家族に対し、事件発覚を恐れて全額の返済を約束していたのだった。そして実際に、山口さんの死亡で得た遺産を返済に充てている。

 続いて09年5月に、入退院を繰り返していた末松さんが死亡した。その時期には、千佐子も警戒していたのか、やや間隔が空く。しかし次の交際を始めて以降は、幾重にも交際相手が重複するようになる。

 10年10月頃から交際していた貝塚市の(8)太田義和さんが11年12月に公正証書遺言を作成すると、彼は約4カ月後の12年3月に死亡。時期は判然としないが、千佐子はその年のうちに堺市の(9)木内義雄さんと交際を始め、同年10月には伊丹市の(10)沢木豊さんとも交際を始める。

 13年5月に木内さんが死亡すると、同年6月には向日市の(11)筧康雄さんと交際を始める。そして9月に沢木さんが死亡。その2カ月後の11月に筧さんと入籍するも、翌12月に彼も死亡した。

 こうして事実関係を時系列に並べるだけでも、いかに尋常ならざる行動であったかは明らかだ。千佐子は彼らの命と引き換えに、総額8億円以上のカネを手にしたのである。しかし皮肉なことに、彼女は投資でそのほとんどを“溶かし”てしまい、最後に筧さんと入籍した段階で、約1100万円の借金を抱えていた。そのため千佐子はなりふり構わずに、隠し持った青酸化合物を使って“事を急ぐ”必要があったのだった。

連続殺人犯 (文春文庫)

小野 一光

文藝春秋

2019年2月8日 発売

高齢者を青酸カリで次々に殺害した“筧千佐子”の意外な過去「子供2人とも私立大学に通わせた」「分家の嫁として虐げられ…」

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