近視は単に「遠くのものが見えない」というだけではない。視野を狭める病気の発症リスクが、強度の近視である人の方がそうでない人よりも高くなると明らかになったのだ。

 ここでは、NHKの番組ディレクターとして『クローズアップ現代』『サイエンスZERO』などを担当した大石寛人氏の著書『子どもの目が危ない 「超近視時代」に視力をどう守るか』(NHK出版)より一部を抜粋。強度の近視がもたらす恐るべきリスクについて紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

近視が高める眼病のリスク

 近視によって視野が失われる病気のリスクが高まる以外にも、失明を招く様々な眼病のリスクが明らかになってきている。

 その代表例は、眼球でレンズの役割を担う水晶体が濁り、視力が低下する「白内障」だ。特に近視の場合には水晶体の中心から濁ってしまう「核白内障」の発症が多いとの報告がある。そして、眼球でスクリーンの役割を担う網膜がはがれ、失明に至る可能性のある「網膜剥離」。それぞれ実際にどのくらいリスクが高まるかについては、いまも研究が続けられているが、参考になる数字がある。疫学研究の結果をまとめた論文によると、強度の近視では、

 ・緑内障  3.3倍

 ・白内障  5.5倍

 ・網膜剥離 21.5倍

 という数字が公表されている。

 これらの数字は「オッズ比」と呼ばれる統計上の尺度だ。この場合、「強度の近視による様々な病気の発症への“影響の度合い”」を示している。

©iStock.com

強度近視が緑内障発症のリスクを高めている

 緑内障の例で、もう少し具体的に説明してみよう。緑内障を「発症した」グループ内で、「近視でない人」の数に対する「強度近視の人」の数の割合を計算する。一方、緑内障を「発症していない」グループ内でも同様の割合を算出する。そして、この両方の数値の比をとったものがオッズ比であり、ここでは3.3倍という値だった。

 もし、緑内障を「発症した/発症していない」という2つのグループで、「強度近視である/近視ではない」という人数の割合が同じであれば、オッズ比は1倍となる。すなわち、緑内障が発症するかどうかに対して強度近視は特に影響を与えていないようだ、という判断ができる。しかし、この論文では3.3倍という値だった。これはつまり、強度近視であることが緑内障発症のリスクを高めている、と判断できることを意味している。白内障は5.5倍、網膜剥離は21.5倍なので、緑内障よりも、それぞれの病気発症との関係がより深いことがわかる。

 さらにもう一つ興味深い点は、この数値は強度の近視だけにとどまらず、中等度、さらに弱度でも1より大きくなるという点だ。